第48話 宝箱の中には



 ふと、髭男が脱ぎ捨てたローブを探ってみる。

 ゲーム内では倒した敵の持ち物をあさるのはごく当たり前の行為なのだ。

 クエストのキーになるアイテムを持っていることがよくあるから。

 この男も、その例にもれずなのか、ローブの中に鍵を一つ持っていた。

 何処のカギだろう。もしかして、宝箱のかな。


 リリーたちはどこだろうと見まわすと、玉座の後ろの方に居るようだった。

「宝箱って、何が入ってました?」

 僕が行って聞くと、案の定、鍵がまだ開かないんだよとリズが答えた。

 見ると、豪華な装飾のデカい宝箱があった。

 その鍵穴にピッキングの針金を刺して開けようとしていたのだ。

 これがそのカギじゃないかな、と僕が言って差し出す。 


「おお、開いたぞ、どれどれ」

 みんなが注目する中、リリーが中から青い装束を取り出した。

 ローブではなさそうだ。身体にぴったりくるようなつなぎみたいなワンピースだった。

 他には、赤い短パンにブーツ、それとマントがあった。

 それ以外には宝石類も金貨も何も入ってない。


「何だ、大したものないな」

 リズはがっかりした顔。

 皆も、こんなものわざわざ宝箱に入れて鍵かけるなんて馬鹿じゃんという顔をしてる。


 しかし、カオルが何かに気づいたように声を上げた。

「これ見てくださいよ。ジュン、わかる?」

 カオルは青い衣装を広げて僕の方に見せた。

 ちょうどつなぎの胸の部分だ。そこにはSの文字が大きく記してあった。

 そのマーク、見覚えある。


「それって、あのアメリカンコミックヒーローか?」

 僕の言葉にカオルが大きくうなずいた。

 

「なんだよ、この服がどうかしたのか?」

 リリーは前世の記憶の中にないのだろうか。首をかしげている。

 僕とカオルが説明する。

 つまりは桃太郎みたいに、そのヒーローもこの世界に召喚されてきたという事なのかもしれないと。


「もしかして、それってローラが言ってた戦士の事かな。ハイルーズ山に登る戦士」

 はっとした顔でリリーが言った。

 

 そうだとしたら、彼もこの洞窟に入ってきて、あの髭男にやられたのだろうか?

「あ、あの鉄の扉の部屋。あそこが牢屋になっているのかも」

 僕の想像では、宝箱の鍵があの鉄扉の鍵を兼ねている気がしたのだった。

 皆でそちらに向かう。髭男を起こして尋問するのも考えたが、実際に部屋を捜索する方が手っ取り早い。


 鉄の扉の装飾をよく見ると、そのドラゴンの眼に当たる部分が鍵穴になっていた。

 そこに差し込んで回すと、軽やかな音がして扉が開いた。


 最初に目に飛び込んできたのは、石壁に鎖でつながれた全裸の男だった。

 筋肉質の身体にはところどころ痣があり、かなり痛めつけられた様子がうかがい知れた。

 うなだれていたその男がゆっくり顔を上げた。まだ生きてるようだ。


「大丈夫か?」

 リリーがそばに寄って、早速手かせを外す。

 ほら、これ回復薬だよ、と言ってリズがその男の口元に小瓶を差し出した。

 あれって僕のおしっこなんだよなと思うと、実際回復薬には違いないのだけど、なんだか悪い気がする。


「君たちは?」

 拘束が解けて自由になった彼はその場に座り込んで、顔だけこちらに向けた。

「俺は勇者リリー。これ、お前の服か?」

 リリーは聞きながら彼に衣装を渡す。

 彼は、ありがとうと言って受け取った。するするとそれを着こんで、見覚えのあるヒーローの姿になった。

 服を着こんだからか、回復薬が効いてきたのか、顔色も良くなりうつろだった表情に笑みも浮かんできた。


「あなたも、この世界の問題を解決するために来たのですか?」

 カオルが聞いた。彼が立ち上がる。

 立ち上がった彼は僕らよりも頭一つ以上背が高い大男だった。

「いや、気が付いてみたらこの世界に来ていたんだよ。それでいろいろ取材して回って、どうやらハイルーズ山の上で何か異変が起こってるとわかったのだ」

 そういう事か。

 彼は本来新聞記者なのだから取材調査は得意分野なのだ。


「此処の魔導士はどうした?」

 一瞬曇った表情で彼は聞いた。

 自分がやられた相手を、目の前のかわいい女の子たちがどうにかできたのかと心配げな顔つきだ。

「大丈夫ですよ。ジュンのいんら……魅了の術で眠らせてますから」

 カオルがケツマン波とは言いにくかったのか、言い換えた。

「君らは精神感応術ができるのか。私は物理的な戦いには慣れてるんだけど、ああいう魔術系は苦手なのだよ」

 大きくため息をつく。


「では、あの魔導師が目を覚ます前にここから出ようか。でも、あなたの格好、ここでは目立ちすぎるからローブ羽織っておきなさいよ、あいつの剥ぎ取ってくるから」

 タバサが言った。

 

 その後、僕らは洞窟を出ることにした。

 幸い雨は小雨になっている。

 でも、空はまだ暗かった。

 

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