第45話 洞窟に罠はつきもの



「誰だ? 姿を見せろ」

 すぐにリリーはそう叫んだ。

 しかし返事はない。誰かが僕らを見張っているのだろうか。

 

 カオルを見るけど、魔力を持つ彼女にもなにも気づくことはないようだ。

 僕の中に蓄えられたいろんな知識をまさぐってみても、思いつくようなものはない。


「とにかく、考えられることは、この奥にいる何者かは僕らの存在に気づいているけど、僕らはその何者かをまったく知らないということです。危険ですよ、いったん出ましょう」

 僕が言うけど、リリーは首をふった。


「一人じゃ無理だけど、五人いれば何とかなるだろ。来いって言ってるんだから言ってみよう」

 リリーが勇者の顔で言った。


「では、防護力を引き上げる呪文を発動しますね」

 カオルが言って両手の指を繊細に動かした。

 僕ら五人の身体に光の幕のようなものが降りてきて、それに包まれた。

 その光はゆっくり消えていったが、全身が頑強になった感じは残っている。

 しばらく効果が残るタイプの呪文のようだ。


「じゃあ、行くぞ」

 リリーが先頭になって、すぐにタバサ、リズが続く。

 その後にカオルで、僕は最後尾だった。

 やはり、戦闘では僕の出番はないのかな。せっかく氷の短剣を構えても、それを使う機会がないなんて、なんだか寂しい。


 曲がりくねった岩の穴を通って行く。

 ところどころに魔法石が灯っているから、滑ったり躓いたりしないように、足元に少し気をつける程度で先に進むことができた。

 右に曲がったり左に曲がったり、登ったり下ったりで、やっとたどり着いた広間は、棺桶の並ぶ霊安室みたいだった。


 僕らの足音に反応したのか、その棺桶の蓋が跳ね上がった。

 中から骸骨が何体も立ち上がってくる。その骸骨たちが剣を持ち上げる。


「やっぱり罠なのね」

 タバサが先手必勝と炎の短剣で斬りかかった。  

 剣を構えようとしたその骸骨兵士は、タバサの剣を受けて炎を舞い上げて崩れ落ちた。


 リリーの鞭が別の骸骨を電気ショックでバラバラにする。

 リズとカオルは後方から、それぞれ弓矢と氷雪魔法で援護している。

 カオルの氷雪魔法を食らうと、骸骨の動きが極端に鈍くなって、倒すのが簡単になるようだ。

 一分もかからずに、ここに現れた六体の骸骨兵士は全滅させられた。

 なかなか強いチームじゃないか、僕らは。


「ボスはどこだ? 姿をあらわせ」

 叫ぶリリーに答える声はない。

 

 骸骨兵士を操るボスは、多分死霊術師なのだろう。

 ここに巣食っていたのは、聖賢者じゃなくてそっちだったか。


 その霊安室の奥には扉が二つ並んでいた。

 右の扉は木の扉、左は鉄の扉だった。

 リリーは鉄の扉に手をかけた。取っ手を引くがびくともしないようだ。

 タバサが木の扉を開く。今度はすんなり開いた。


「気をつけて、足元、罠がありますよ」

 カオルが叫んだ。カオルの言うとおり、そこには低い位置に細い紐が張ってあり、それを足で引っ掛けると矢が飛んでくる仕掛けが見える。

 

 解除するからどいてとリズが言って、その紐を横の方から切って弓矢を空振りさせた。 

 そうしてその先を進んでいく。

 さっきの鉄の扉が気になるな。ゲームではこういう場合、木の扉のあとの部屋にレバーが有ったりしてそれを操作することで鉄の扉が開くなんてギミックが設定してあるものだけど。

 

 狭い通路がだんだん広くなってきた。

 そして左に曲がると、真っ直ぐな通路の先に大きめの扉が現れた。

 いかにもボスの部屋のドアという感じに複雑な装飾まで彫られている。


「あの先がきっとボスの部屋です」

 カオルも同じことを感じたのだろう、そう言った。


 リリーが一つ深呼吸すると、おもむろにそのドアを開く。

 その奥には広い空間が開けていた。

 これまでのどの場所よりも明るく魔法石の光が輝いている。

 一番奥の一段高くなった場所に王の椅子みたいな豪華な席が設けてあり、そこに一人の髭をはやした男が座っていた。紫色の法衣は金色の金具が所々に縫い付けてあるきらびやかな物だった。

 

「お前がボスか」リリーが鞭を構える。

 タバサとリズも戦闘態勢。カオルも魔法の準備OKだ。

 なんだか僕だけお呼びでない感じ。


「勇者よ。よくぞここまで来れたな。お前が本物の勇者かどうか試したのだ」

 髭男は厳かな調子でそう言ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る