三章 解決に向けて

第44話 聖賢者の洞窟


  

 九戒の精を受けた僕は、体力抜群で重い荷物を軽々と運ぶことができた。

 それに戦闘能力が高まってるのも感じたし、そういうところで九戒の強さというのを感じる。しかし、これだけの能力を持ってたのに、キャラメイクで失敗してただの大イノシシになってしまってたというのは悲しいだろうなあ。

 そろそろ、五蔵たちは元の世界に戻ってる頃だ。

 あのイノシシ、地団駄踏んで悔しがってるのではないかな。


 思わずクスリと笑う僕をリリーが見とがめた。

「なににやけてるんだよ」

 彼女の左手がこつんと僕の肩を小突いた。

 何でもないですよ、と言いながら周囲を見回す。

 高原の村、シバルクを出てずっと下り坂が続いていた。

 ゲーム内でも山あり谷ありで立体的に起伏のある土地柄だったけど、現実に歩いてみると、疲れるし急な下り坂は滑って転びそうになるしなかなか大変だ。

 

 見晴らしの良かった高原の道から、次第に谷沿いになって木々が生い茂り見通しが悪くなってきた。

 

「ひと雨きそうだよ。テント布広げる準備しておこうか」

 前を歩くリズが振り向いて言った。

 空を見上げる。

 本当だ。周囲が暗くなったのは木々に囲まれただけじゃなくて、空を暗い雲が多い始めたからだった。 

 

「確か、この近くに洞窟があったと思うけど」

 カオルが言いだした。

 そうだった。ゲーム内ではこの辺には『聖賢者の洞窟』というのがあったはずだ。そこではゲームプレイヤーを聖賢者が導くイベントがあった。


「でも、洞窟ってだいたい熊や狼なんかの巣になってたりするんだよな。下手したら山賊の巣窟だったりして、やばいぞ」

 リリーも木こり生活をして、この世界でずっと生きてきたわけだから、そのへんはよくわかってるようだ。

 ゲームの中では洞窟なんか見つけたら、取り合えず入ってみて宝箱を探すものだけど、現実にはそんなことやばくて簡単にはできないのだ。

 

 歩いていると、道の左側に岩肌が割れているところが見えてきた。

「あれですよね」

 カオルが僕に聞いてくる。

「そうだね。聖賢者のイベントがあったよね」

 僕が答えると同時位に土砂降りが始まった。

 ああ、もうしょうがないなとリリーが叫んで、その洞窟に向かって走った。

 もし狼やクマが居ても、僕とリリーだけじゃ苦労するだろうけど、五人いる今なら何とか対処できるだろう。 


 洞窟に飛び込んだ。

 当然、普通なら中は真っ暗なはずだ。でもそうじゃなかった。


「これは、魔法石の灯りですよね。魔法使いの洞窟だったんだ、やっぱり」

 洞窟の壁に備えつけられた灯りを見つめてカオルが言った。

 という事は、やはりここはゲームのシナリオ通りに聖賢者の洞窟なのだろうか。

 

 狭い入口の中は少し広いホールになっていて、さらにその奥に続く穴が薄暗い魔法石の灯りに照らされていた。

 雨宿りするだけなら奥まで探検する必要はない。

 ここでじっと雨の止むのを待っていればいいのだ。


「奥の穴ちょっと見てくるよ」

 タバサが言って、リズと二人で偵察に行こうとしていた。

 うーん、その必要あるのかな。僕が止めるまもなく、声がその洞窟に響いてきた。


 勇者よ、待っていたぞ。奥へ進め。

 洞窟内のエコーを響かせながら声はそう言ったのだった。

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