第43話 ロリテッドに向かって

 

「だから変態じゃないんです。僕らはこの世界の異変を修正するためにハイルーズ山の寺院に向かうんですから」

 五蔵と九戎のためにやったことで変態扱いはないよなと、必死に言い訳する僕に、ふとローラの表情が変わった。


「世界の異変ですか。もしかして奇病の流行っている原因なのですか?」

 おっと、いきなり食いついてきたのはそこか。

 彼女にとってみればそうだよな。


「たぶん、関連があると思われます」

 僕の代わりに五蔵が答えてくれた。うん、説得力ある。


 でもその後にローラの口から出た言葉は、予想外だった。

「実は、同じようなことを行ってハイルーズ山に登るという人を最近見かけたのです」

 そう言ったのだ。

 

「その人はどんな格好をしていましたか? 私のような法衣を着ていませんでしたか?」

 五蔵が慌てて訊き返した。

 寝込んでしまったイノシシの下から、リリーが引っ張り出してくれて、僕は何とか抜け出した。


「いえ、変わった格好でしたけど、もっと体にぴったりくるような戦闘服の戦士という感じでした」ローラがそう答えた。


「という事は、五蔵さんとはまた別の世界のキャラが、五蔵さんと同じようにこの世界に乗り込んできたってことですかね」

 カオルがまとめた。本当にそういう事なのだろうか。


 五蔵自身は腕を組んで考え込んでいる。


「それって、いつ頃のことですか?」

 今度は僕がローラに尋ねてみる。

「十日ほど前の事だったと思います。ちょうど今の患者がここに運ばれてきた頃ですから」

 小首をかしげながら彼女が答える。

「だとしたら、その人はもうハイルーズの寺院にはとっくに着いているはずだ」

 カオルの言う通りだろう。


 つまり、その人物には問題を解決することはできなかったという事か。

 いったい、ハイルーズの寺院では何が起こってるのだろう。

 

 その夜は、僕も少しだけイノシシ鍋をもらって食べた。

 寺の中で、雑魚寝の夜は更けていくのに、山頂の寺院の混乱を想像するとなかなか眠れなかった。


 次の朝になると、寝込んでいた患者たちが起き上がれるくらいに回復していた。

 尼僧のローラも顔色良く、すでに全快のようだ。


 五蔵法師の法力が戻るまで、あと五時間ほどだ。


 簡単な朝食をみんなで取った後、僕らは村を出た。

 ところどころ焼け焦げの残る寺院を去るときは、ローラの他に数人の患者も起き上がって見送りしてくれた。

 ただ、やはりイノシシの九戒がうろうろしてなかなか距離が稼げない。

 

「やはり、別行動にしましょうか」

 まだ村を出て少し歩いたところで、ため息をついた五蔵が言った。

「私はあと数時間で法力が戻るので、それまであの村にいることにします。ローラの寺に居れば危険もないでしょうし、それでいったん元の世界に戻ってから、九戒を元通りにしてこの世界に来ることにします」


「じゃあ、ロリテッドの村で追いつくんじゃないの? というか、こっちの世界に来るときに、直接ロリテッドに来ればいいんだし」

 タバサが言うけど、五蔵は難しい顔をする。

「異世界転移をするときは、あんまり精密な時空の調整ができないのです。できるだけ調整するようにしたいですが……」

 五蔵ほどのレベルの魔導士でも万能ではないのだな。


「まあ、大丈夫だよ。ジュンが能力を受け継いでるんだし、俺達で何とかするから」

 そうリリーが言って、五蔵と僕らはそこで別れることになった。


 日が昇り徐々に強くなる日差しの中で、僕ら五人は埃っぽい道をロリテッドに向かって歩き始めた。



 第二部 おわり

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