第41話 消火
真っ先に行動したのはカオルだった。
彼女が炎に向けて手のひらをかざすと、手のひらからは青白い吹雪が発生して燃えている個所を一瞬で凍り付かせた。
氷雪魔法だ。
外からも火を消すために小屋を出ようとしたカオルを、タバサが止めた。
「今出ると弓矢で攻撃されるかもしれない。あたしたちが先に出るから」
タバサとリズが戦闘態勢に低く構えて、扉を開く準備をする。
「村人を殺さないようにしろよ。俺が気絶させるから」
リリーが淫電の鞭を片手に指令を出した。
僕も氷の短剣を抜いて構える。
刀身が水色に光って冷気が頬に感じられた。格好良いなあ。
そんな僕に、リリーは冷たい。
「お前はいいから、引っ込んでろ」
そう怒鳴った。
ええー、なんで? と思うまもなくリリーが扉を開いた。
リズとタバサが飛び出す。
その途端に、弓矢を弾く音だろうか、金属音が続いた。
バチッバチッと言う音も聞こえて、僕が出た時には数人の倒れた村人たちと、リリーと村長の対峙した場面がいきなり現れたのだった。
弓を片手に寝転がってる男の中には、僕らに最初に話しかけてきた農夫もいた。
「俺達まで殺そうとするなんて、ちょっとひどいよな」
リリーが村長に詰め寄ると、彼はすぐに土下座をして降参の意をあらわにした。
機を見るに敏というのか、形勢が悪いと見るや即座に降参だ。
なんかいけすかないな。
「すいませんでした。しかし、あなた方もすでに感染しているはず。とにかく村を全滅させないためにはこうするより他にないと……」
村長は最後まで言わずに口ごもる。
後から出てきたカオルが、周囲の火を消火した。
氷雪魔法で炎が一瞬で凍り付く。
それを見た農民たちは、その魔法の効果に目を見張っていた。
僕もなにか活躍したかったのに、出る幕がないとはこのことか。
「この人たちのおかげで、病気は治りそうです。私の熱も下がりました。水と、食べ物を持ってきてください」
最後に出てきた尼僧が村長たちに言った。
「ああ、ローラ様。もう大丈夫なのですか?」
横から、さっき僕らに助けを求めに来た中年女性が尼僧のそばに寄ってきてその前に膝まづく。
「この人たちの持っていた回復薬でずいぶんよくなりました。中の患者たちも持ちこたえそうですよ」
村人達はその様子を遠巻きに見てるだけだった。
まだ感染の恐れがあるのではと疑ってるみたいだ。
「とにかく、水と食料を用意させる。おい、行くぞ」
そう言って、村長は気絶から覚めて頭を振っている農夫らを引き立てるようにして去って行った。
僕らも再び室内に戻った。
リズとタバサは、また奇襲があるかもしれないと、用心のために表で見張ることになった。
「半年ほど前から、私の治療が効かない流行病が広がりだしたのです」
ローラはそう言って、これまでになかったこの病について話し出した。
似たような病気はこれまでにもあったが、彼女の作る回復薬が効かないことはなかったのだそうだ。
「ペスト菌も、もともとこの世界になかった物が別の世界から引っ張り込まれたのでしょうか」
カオルが五蔵に聞いた。
「恐らくそういう事でしょう」
五蔵が難しい顔で答える。
「これは、思っていた以上に重大な異変のようです。早く解決しなければ、この世界の全滅もあり得るくらいです」
五蔵の言うとおりだ。
単にいろんなキャラが入り込んできて賑やかになるだけじゃすまないのだ。
「半年くらい前から病気が流行りだした、という事はその頃この異変が発生したという事でしょうか」
再び尋ねるカオルに、五蔵は多分と答える。
最初は細菌やウィルスのようなものから始まり、そのあとに人間が転移してきたという事なのかな。
ではその次は、さらに大きな怪物のドラゴンとか。
そんなことを思うと、何とか早くその異常を修正しないと、と気が焦ってしまう。
五蔵の法力が戻るのには、あと18時間ほどか。
そう思ってると、外からリズが声をかけてきた。
「おい、食料が届いたよ」
水と、肉、野菜などが室内に持ち込まれ、隅の囲炉裏に火がともる。
柔らかい火の光が部屋に満ちて心まで温まりそうだ。
「イノシシ肉みたいですね。イノシシ鍋ができるわ。これでみんな元気出るといいんだけど」尼僧のローラが鍋に材料を入れながら言う。
イノシシ肉? 五蔵がはっとして声を上げた。
そう言えば、五蔵のお供の九戒を、キャンプに置いてきたままだった。
「まさか九戒が」
五蔵は慌てて寺院を走り出た。
僕もそれに続く。「ちょっと九戒を見てくるから、リリーたちはここを守っていて」振り向いてそういう僕に、自分も行きますとカオルがついてきてくれた。
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