第37話 五蔵法師
「それはちょっと違うと思いますよ」
五蔵が言った。
桃太郎に会ったことを話した時だ。
童話の世界のキャラクターが転生したのは珍しいと僕が言った時の事だった。
「物語とひと言に言いますが、その物語を物語とする世界があるように、その物語が現実である世界も存在するからです。要するに、私たちと桃太郎さんとは本質的な違いはないのです」
「じゃあさ、僕等がいた現実世界も、どこかの世界では物語の世界だったってこと?」
カオルが訊くと、五蔵がほほ笑んだ。
「その通りです。こうして僕らが話しているところだって、誰かが読んでいる小説のワンシーンである場合があるという事です」
え、そうだったのか?
僕がこの世界に転生して来た時のことを思い出す。
それからこれまでの冒険、確かに小説にしてもおかしくない物語だった。
だったら、僕のこれまでしてきた数々のエッチな場面やあへ顔でいきまくってる顔も誰かに見られてたってこと?
なんだか恥ずかしい。
「あはは、それは気にしても仕方のない事ですよ。それに読者は読むだけでその物語に介入することはないですから私たちにとっては居ないのと同じことです」
五蔵がそう言って慰めてくれる。
「ところで、あなたは自分の意志でこの世界に来たんですか? そんな風に聞こえたけど」
カオルが訊いた。
すると、五蔵はうなずいて、
「この世界の異常を修正するように、お釈迦様に送り込まれました。ただ九戒があんな風になって困ってたところです。一度戻るしかないかもしれません」
そう言うと、離れたところで土を掘っている大イノシシを見やった。
「じゃあその、この世界の異常って何なんだよ」
今度はリリーが訊いてきた。勇者リリーにとってはそこが問題なのだ。
「人は誰でも、死ぬとまた別の世界で生まれ変わる、これは輪廻転生と言って普通のことです。でも、ジュンやカオル達はキャラメイクでゲーム世界に降り立つようにこの世界に入ってきたわけですよね。まるでこの世界のだれかが召喚したみたいに。私の持っている情報では、この世界の中心部でそういう魔法装置を動かしている存在がいるようなのです。このまま放っておくと、ブラックホールのように異世界からのキャラクターを無限に引き込んで、この世界がしっちゃかめっちゃかになってしまいます。だから、その者か、その装置の間違いをただすことが今回の私の任務なのです」
どこか誇らし気に五蔵は言った。
「でもその任務が、あのイノシシの所為で頓挫しそうになってるってことか」
タバサが苦笑いしながら言う。五蔵がため息をついた。
「じゃあさ、その任務。俺らが肩代わりしてやるよ。なんだかやる気出てきたぞ」
リリーは張り切っているけど、簡単な仕事とは思えない。
「そうしてもらえれば助かるのですが、いろいろと複雑な作業が必要だし、口で説明するのはちょっと難しいのです」
首を傾げる五蔵に、カオルが、それなら大丈夫。いい方法ありますと声を上げた。
「ええ? ちょっとそれは」
カオルの説明を聞いた五蔵は文字通り腰が引ける様子だ。
五蔵の精を、僕が口で一回、お尻で一回受け取ることで彼の知識と、一度だけだけど彼の能力を僕が受け継ぐという説明だ。
「この世界を救うためなんだから、ちょっとくらい恥ずかしくてもできるよね」
タバサが念を押す。
「ほら、パンツ脱ぎなさい」
リズが五蔵に詰め寄る。
こういう役割ってこの二人は得意なんだよなあ。
「でも、こんなところでするんですか?」
五蔵はきょろきょろしている。
道はずれの原っぱには何も目隠しになるようなものはない。
「大丈夫、私たち以外人影ないじゃない」
タバサが五蔵の両手を優しく引っ張り上げて、縄をかけた。
「ああ、でも、縛ることないでしょ」
五蔵が嫌々と首を振るが、タバサは容赦ない。アマゾネスは甘くないのだ。
「うふふ、美少年をいじめるときはやり方ってのがあるのよ。気分の乗るやり方」
リズも楽しそうだ。
いつもは僕がいじめられる側だったけど、こうしていじめる側に立つのもなかなか楽しいかもなんて思った。
恥ずかしそうに縛られていくショタっ子五蔵がかわいい。
「こんな感じかな。じゃあ、ジュン、五蔵君のふんどし解いてあげて」
タバサに言われて、僕は膝を曲げて縛られた五蔵の足の間に入る。
「あ、ちょっと待ってください。忘れてた」
五蔵が慌てた様子で言いだした。
「この期に及んで何?」
リズが訊くと、
「私はエクスタシーを感じてしまうと、24時間法力が使えなくなってしまうんです。それだと元の世界に戻れないし、九戒もあんなだし、ボディガードが居ないとまずいです、この世界では」
その言葉を聞いて、五蔵には五蔵の設定があるんだなと思った。
「それなら大丈夫ですよ。24時間後には元に戻るのなら、それまで僕らと一緒に行動してればいいだけだから。タバサやリズが守ってくれますよ」
僕が足の間からそう言うと、彼は仕方なくうなずいた。
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