第36話 この世界の問題点



 砂浜に六人で車座になって話し合ってみた。


「架空の物語のキャラクターが転生して来たっていうのは、異世界物としても珍しいですよね」

 カオルが言う。

 

「カオルは異世界物よく読んでたの」

 僕はあんまり読んでなかった。

「いくつか有名どころを読んだだけですけど、たいていは前世での記憶をもって中世ヨーロッパみたいな世界に転生した主人公が、前世での知識を駆使して、その世界で成り上がっていくみたいな感じでしたよ」


「要するにこの世界が異常だって言いたいのか?」

 リリーが訊く。

 せっかく生まれ変わった世界が異常な世界だと思われるのは不満そうだ。


「でも、それって困ったことなの? 桃太郎君がこの村に来てくれて、この村は助かったんでしょ。カオルやジュンが来てくれて、リリーの仲間になってくれたんだし、別に問題ないと思うんだけど」と、リズがリリーに気を使ったのか言ってくれる。


 リズの言う通りなのかな。

 僕にもよくわからない。


「でも、もし異常があるんだったら、それこそ勇者の俺が正すべき問題だよな」

 リリーが決心するかのように言う。

 おお、とうとう問題点を見つけたのか、勇者が。

 感動的な場面なのだけど、問題が漠然としすぎてどう解決していいのかわからない。


「でも、もう少し様子を見るしかないですよ。とりあえずホワイトホースに向かいましょう」

 僕が言うと、桃太郎が僕を見た。


「君も来る?」

 僕が聞くと、桃太郎は難しい顔をした。

「まだ海賊の残党がいるかもしれないから、すぐにはここを去ることはできないと思います。この村の安全が保証されたら、いずれここを出ることになると思うけど、どこに行けばいいかわからないし……」


「ホワイトホースに来ればいいさ。ここから南下して2日くらいの場所だ。大きな街だし、仕事を探すのにいいから」

 タバサが横から言った。


 うなずく桃太郎を残して、僕らはその村を出る。

 少し東に行ったところから南下する道を見つけて、川沿いの坂道を登り始めた。


「だんだん坂がきつくなってきましたね。谷も深くなってきたし、結構キツイなあ」

 息を切らしながらカオルが言う。きつそうな割には楽しそうだ。

 チュードンに現れてからずっと囚われの身だったわけだから、その開放感はたまらないだろう。

 

 右側を見下ろすと、崖がずっと下まで。目が眩みそうだ。

 ガードレールもないんだから怖いな。


「ちょっとここで待ってな。先を見てくるよ」

 タバサが言って、リズと二人で走り去った。

 

 その先の曲がり角に、しばらくして現れた。

「大丈夫、登ってきて」

 リズが言う。


 何なんだろうと思ったけど、彼女らが言うには、こんな崖っぷちの道は山賊たちの絶好の仕事場なのだとか。


「上から攻撃するのが断然有利だからね。それに崖っぷちだと逃げるのも難しいだろ。だから山賊はこんなところで待ち伏せしたりするんだよ」

 そういうタバサを見て、彼女が居てくれてよかったと、初めて思った。


 そうして崖っぷちを登っていった先は、高原の村が遠くに見えてきた。

 

 でもその前に、一人の僧侶が大きな獣を引っ張りながら困っている光景に出会ってしまう。


「こら、九戒そっちじゃないよ」

 僧侶の衣装を着ていたけど、その彼はまだ若い少年だった。

 すごく可愛い。僧の格好だけど、剃髪してないし柔らかな髪の毛のショタっ子だ。


 その可愛い僧侶が、猪の首輪につけたリードを引いて、なんとか道なりに進ませようと四苦八苦しているのだった。


「大丈夫ですか?」

 僕が声をかけると、彼は、九戒がキャラメイク失敗したみたいで、と口走った。

 キャラメイク、出たなこの言葉。


 ということは彼も転生者ということだ。


「あなたも転生してきたんですか?」

 僕が聞くと、猪のリードをほっぽり出した彼が向き直った。


「あなた達もそうなのですか?」

 面と向かうと、さすがに僧侶なのか気高い雰囲気に極上のオーラを感じる。

「僕はジュンと言います。僕と、こっちのカオルはキャラメイクしてこの世界にきましたよ」


「私は天成寺の五蔵というものです。私はキャラメイクじゃなくてトリップしてきました。ただ、こっちの猪は元はお供の人間型妖怪だったのですが、キャラメイクがうまく行かなかったみたいでこんなになってしまって困ってます」


 五蔵法師か、三蔵法師と関係あるんだろうか。

 それを聞くと、


「三蔵法師は私の兄弟子になります。三蔵法師の物語をご存知なのですか?」

 と彼が目を輝かせた。


 ということは、この人も桃太郎同様に別の物語からのトリップということか。

 でも、桃太郎の時と違って、彼はことの成り行きを理解しているようだった。


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