第34話 鞭の練習
翌日、僕らはスタドーンの町を出てホワイトホースへの道を歩き出した。
リリーと二人だけの時と比べて、五人だと山賊やら狼やらの危険もずっと減って、ずいぶん気楽な旅に思える。
「じゃあさ、そこの河原でちょっと練習したいんだけど」
リリーが僕に言う。
「なんの練習ですか?」
僕が聞くと、リリーは腰から鞭の柄を掴んで見せた。
しかし、卑猥なグリップだな。そこだけ見ると別の道具にしか見えないぞ。
「ええ? まさか僕を鞭打つつもりですか? ひどいなあ」
「勇者になるための訓練をしろって、お前が言ったじゃないか。電気は使わないから大したことないって。狙ったところに当てる練習だから」
リリーが鞭をするりと伸ばした。
グリップの部分が20センチ位でその先の鞭の部分は三メートルくらいある。
革を編んで作った鞭の部分は手元から次第に細くなっているようだ。
しかし、思った以上に長いんだな。
あれなら確かに、思い通りのところに当てるのには練習が必要だろう。
「でも、僕、もう奴隷じゃないんですよね」
リリーに確認する。
「もちろんそうさ。でもこんなこと女には頼めないだろ。お前は見た目は可愛いけど、男なんだから少しくらい我慢できるだろ」
男だろって言われるのって、セクハラなんじゃないのとも思うけど、なんとなくキュンとするところもある。男のプライドをくすぐるってやつか。
ようし、僕はこう見えても男なのだ、強いところを見せなきゃ。
広い河原に降りて、丸石の砂利の上に僕は四つん這いになった。
タバサやリズ、カオルに見守られながら、リリーは僕のお尻を狙って鞭を振るった。
僕の右の地面がパシっと音を立てて、小石が飛び跳ねた。
案外難しいな、リリーの声が聞こえる。
二回目は僕のお尻にぴしっと痛みが走った。
でも、ローブの上からだからさほどの痛みじゃなかった。
パシッパシッと何度かおしりを鞭打たれた。
「どう? 痛い?」
リズが僕の顔を覗きこんで聞いてきた。
「いや、それほどでもないよ。でも、こんなんじゃ敵を倒すなんてできないんじゃないかな」
僕がリズに言う。
「ええ? そんなに効かないかのなあ」とリリーは不満そうだ。
じゃあ、あたしやってみていいかな? そうリズが言ってリリーと交代した。
リリーに代わって、今度はリズが鞭を振るってきた。
ヒュンという風切音がして、ばしん! 途端に僕のお尻に火がついたような痛みが襲った。
痛い痛い。僕は思わず立ち上がってしまう。
「おい、動くなよ、練習にならないだろ」
リリーが怒鳴るけど、痛いものは痛い。
「今の痛かったんですよ。リリーさんの時の二倍は痛かったもん」
僕はそう口にするけど、男だろッと言われて、またお尻を突き出す格好をした。
ここはもう少しの我慢だ。男なんだからと自分に言い聞かせた。
「やっぱりコツがあるんだよ。振り下ろすだけじゃなくて、手首を返して鞭先をしならせるんだ」
タバサがリリーに教授している。
ではと、再びリリーが鞭を持った。
ヒュンと風切り音がして、僕の左の地面がバシッと音をたてる。
再度風切り音がして、今度は僕のお尻に命中。
さっきのリリーの打擲と比べて数段増しの痛さだった。
いたたた。立ち上がろうとする僕を、タバサとリズが抑えこむ。
ちょっと、なんだよSMプレイじゃないんだから。
ヒュン、の次にまたきつい一撃が来た。
あうっと思わず悲鳴を上げてしまう。
「じゃあ今度はタバサやってみて。お手本見せて」
リリーは、タバサに鞭を渡した。
ようし、ちょっと本気出すよ、タバサは言いながら鞭を振り上げた。
みんな、なぜかすごく楽しそう。
おお、鞭がまるで蛇のように空中でくねる。
次の瞬間、これまでで一番の激痛が僕のお尻を襲った。
あうー! 思わず気が遠くなる。眼からは火花が散ったように感じた。
「ごめんごめん、ちょっと今のきつかったかな」
タバサはそう言って僕のローブを捲った。
じんじんと痛さ脈打つ裸のお尻が皆の眼に晒される。
「うわあ、赤くなってる。大丈夫ですか?」
カオルが聞いてくれるけど、カオルの顔にも笑顔がみえる。
「どう? このくらいなら敵を倒せるかな?」
リリーに聞かれた僕は、涙ながらに何度もうなずくのだった。
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