二章 この世界の問題点

第32話 転生者同士が居酒屋で



「ふうん、ジュンは男の娘サキュバスですか。精液が若返り薬になって、おしっこが回復薬になると、それで男の精をお尻に受けると食事代わりのエネルギーになって、男の精を口で飲むとその男の知識を吸収できる。よくそんな複雑な設定、キャラメイクで思いつきましたね」

 チュードンを脱出した僕らは、その湾を越えたあたりに位置するスタドーンの町にある宿屋に来ている。

 そこで食事をしながらカオルと話し合っていた。


 この街の雑貨屋で、彼女のための衣装もそろえて、カオルはやっと恥ずかしい下着姿から普通の魔女の格好になることができていた。黒いローブに、猫耳の髪留めまでそろえてもらって上機嫌だ。

 リズとタバサ、リリーは、もう少し買いたいものがあるからと、今は別行動だった。


「そんな複雑な設定。キャラメイクでできるわけないだろ。僕は可愛い顔のキャラ作りをしただけだよ。それでOKボタンを押したら、ウッドリバーの上の方の野原に現れたわけ。君は魔法使いの設定までちゃんとして来たってわけ?」


「もちろんですよ。属性変更の項目もあったでしょ。でも、どんなふうにして呪文を唱えるか、とかは決めてなかったか。だからかな、呪文を唱えるときは複雑な手の動きが必要だと言ったでしょ。その手の動きって、ピアノで曲を弾く時の指の動きなんですよ。僕は前世ではピアニストだったから、その辺は無意識のうちにそうなったのかな」


 属性変更の項目なんてあったかな? 思い出そうとしても、記憶は霧の中でもう思い出せない。 

 思い出しても仕方ない事だけど。

 

「でも、決めていないことが無意識に決まるのなら、まるで僕の性癖がこの属性になったみたいじゃないか」

「そうですね。まったく、変態みたいですね」

 命の恩人に対して、そんな言い方はないだろうって言ってやりたかったけど、カオルの可愛い顔を見ていたらそれも溜息になるだけだった。


 ウエーブのかかった紺色の長髪。

 ほっそりした色白の顔に切れ長の青い眼、それに鼻筋の通った彫りの深い顔立ちは西洋美人的なツンデレギャルっぽかった。

 僕とはテイストの違うキャラメイクだったけど、それもまた良しだ。


「ところで、この世界って、やっぱりあのゲームの世界なんですかね?」

 カオルが僕のやりこんだあのゲームのタイトルで訊いてきた。


「今のところ、地形的なものはほとんど同じみたいだよ。ただあのゲーム内ではドラゴンが人間の村を襲ったりしていたけど、ここではそういうのはまだないな。クエストとかも似たようなのは無さそうだしね」

 僕が答えると、それって著作権に引っかかるからじゃないですかとふざけたことを言って笑った。


 その時、宿屋の扉が開いてリリーたちが戻ってきた。

 すぐにカオルは立ち上がり、彼女たちを迎えに行く。

「わお、リリーさん、見違えました。素敵な鎧ですね」

 本当だ。カオルの言うようにリリーの格好は一変していた。


 革鎧には違いないが、新しい革鎧は肩当や肘の部分、それに腰の両脇に鋼鉄製のガードが取り付けてあって、一段と剛性がアップしてるのが見ただけでわかる。


「タバサが買ってくれたんだ、ジュンの精を売ったお金で。それにこれもね」

 嬉しそうに差し出すリリーの手には、丸めた縄のようなものがあった。

 あ、あれは雷電の鞭か? この町の武器屋にもあったのか。

 リリーが背負っていた白炎の大剣は、リリーの背中にはない。


「白炎の大剣はどうしたんですか?」

 つい訊いてしまう。

「あ、あれは売ったよ。タバサが使うならと思ったんだけど、やっぱり重いのは苦手だっていうからさ」

「おじいさんの形見なのに?」

「いいんだよ。どうせ洞窟で拾ったものだったんだから。あ、それからお前の奴隷解放もしてやるから」

 さばさばした表情でリリーは言う。

 奴隷解放は嬉しいけど、おじいさんの形見の白炎の大剣、そんなに簡単に売っぱらっていいのか?


 ゲームストーリー的に考えれば、そういう武器って何か特別ないわくが有ったりして、簡単には手放さないものなんだけどな。

 でも、こういう所も現実的というのかな。


「でも、ここ見てよ。形が面白いだろ。これ、雷電の鞭に似てるけど、淫電の鞭っていうんだって」

 リズが横からリリーの持った鞭の柄を持ち上げて見せる。


 鞭の柄の先端部分が太く丸くなっていて、よく見ると亀頭そっくりだった。


「何ですかそれ、エッチな鞭だなあ」カオルも顔を赤らめて言う。

「武器屋の説明では、電気のエネルギーがなくなった時は、嫌いな男の尻に突っ込んでください、なんて言ってたよ」

 リズが僕を見て言う。

「僕のことは嫌いじゃないでしょ」僕は思わずリリーを見てしまう。

 リリーはニヤニヤするだけだ。


「嫌いなっていう言葉には大した意味はないと思うよ。好きな男の尻に突っ込んだら嫌われるからっていう程度の意味でさ。でも、うちらの中には男はジュンだけってこと」

 タバサは僕の肩を叩いて、だからその時はよろしくねと付け加えた。

 

 そうか、タバサの言葉で改めて思った。僕らのパーティーで男は僕だけなのだ。

 あとは全部美女だらけ。これって考えようによっては男が天国のハーレム状態なわけだけど、今の僕にとって、彼女たちは性欲の対象ではないのだ。悲しいことに。


 男の娘サキュバスのお相手は男なのだから。


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