第30話 魔女救出作戦



 中央広場には大勢の群衆が集まっていた。

 その真ん中の一段高くなった場所で、薪がたくさん燃えて炎を上げている。

 離れて見ているこっちにまでその熱気が伝わってくる。

 炎の上には鉄製の大きな釜が乗せられていて、ゴボゴボという音とともに湯気が上がっていた。


 その釜の上に木の枠が作られていて、そこには裸の女が吊るされている。

 若い女だ。少女と言ってもいいくらいに見えた。

 手足を一括りに縛られているその女は、恐怖にゆがんだ顔で身をよじっている。


 今にも彼女を吊るしているロープが断ち切られて、その身体が煮えたぎる熱湯の中に落とされようとしているのだ。




「いやー、助けて!」

 力の限りの叫び声が響くが、その声に反応する者は誰もいない。

 皆、これから始まる残酷なショーに期待感のこもった眼をして見詰めていた。

 中には裸の若い女を見て性的興奮の度合いをお高めている男もたくさんいた。


 その様子を見ていると、やはり処刑はここの民衆の娯楽的要素も持っているように思えた。

 例えば前世では、映画の中にも残酷なシーンはたくさんあったし、それを人々は娯楽として鑑賞いたのだ。本物か、芝居かの違いは残酷なシーンを見て楽しむということには関係ない。


 そういうシーンを見るのが、人間の娯楽になりえるという事に変わりはないのだ。

 だから、この世界の住民が特別サディスティックな性格というわけではないのだろう。人間の怖さを思って、背筋が寒くなる。

 

 周囲を見回すと、タバサとリズが居るのが見えた。

 僕はある決心と共に二人の所へ歩く。


「あの子を助けましょう」

 僕は仲間三人に向かって言った。


「でもどうやって? 衛兵が十人は周りを固めているぞ」

 リリーが聞いてくるが、助けるという事に反対はされなかった。

 多分リリーも助けたいと思っていたのだ。


「僕が混乱させますから、その間に彼女を下ろして逃げてください。城門から出て左に降りると港への道があります。そこから枝分かれした道が灯台に続いているので、灯台の所で待っていてください」


 僕はそれだけ言うと、衛兵たちからよく見える場所に移った。

 リリーたちに合図を送った後、大声を上げる。


 おおい、こっち見て、おおい!

 そう叫んで注目を集めた後、後ろを向いてローブを捲り上げて生尻を拝ませてやった。


 途端にその場にいた男たちが放心した様子で僕の方に寄ってくる。

 中には勢いよく走ってくるものもいる。


 僕はそいつらを引き連れて城の外までゆっくり走った。

 術の効き目が落ちないように、時折立ち止まって再びお尻を見せつけてやる。


 そうやって二十人くらいの男たちを城の外まで連れ出した。

 あとはリリーたちが上手くやってくれていればいいのだが。


 先日の狼の能力がまだ生きているみたいで、走る能力は普通の人間に比べて段違いだ。いつでも一気に引き離せる余裕がある。


 もういいかな、城門から出てしばらく行ったあたりで、僕は全力で走って逃げ切った。ダッシュしてジャンプすると、一気に三メートルくらい高く飛べる。

 低木や岩など、普通なら回り道しないといけないような障害物をひょいっと飛び越える。

 身体が空気みたいに軽い。思い切り走るのが爽快で快感だった。


 くるりと回って丘の上の方から彼らを見下ろすと、僕の姿を見失った彼らは立ち止まってキョロキョロしていた。

 さっき大学でいちゃもん着けてきた男子学生二人も、途中で転んだのか綺麗な衣装を泥だらけにしてふらついてる。

 自分が何故ここにいるのかわからない、みたいな反応だ。

 めまいでもしたかのように頭を振っている者もいる。

 対象が居なくなると、術が解けるのも早いようだ。


 僕は彼らに見つからないように物陰に隠れながら、来た道を引き返した。


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