第29話 釜茹での刑
でも、タバサも言ってたし、僕もリリーの大剣は大きすぎて似合わないと思ってしまう。
リリーは電気ショックで気絶させることにこだわりがあるみたいだし、それならもう少し軽い武器で同じような効果があるものを探したらいいかもしれないな。
武器の事を思い浮かべると、ふっといろんな種類のものが浮かび上がってきた。
これはきっと昨夜の兵士の知識に違いない。
彼の精を一度口で飲んだから、その知識を吸収できたのだ。
雷電の鞭、あれが良いかもしれない。
確かこの街の武器屋に置いてあったはずだ。
そんなことを思いながら、僕はその城門の中に足を踏み入れた。
「ところで、荷物の宛先の人、居場所はわかってるんですか?」
街中に並ぶ様々な店先を興味深げに覗いたりしているリリーに聞くと、
「あ、ああ。そうだったな」
僕の担いだリュックの中に手を突っ込んで、細長い巻物を取り出した。
そして宛先の名前を読み上げた。
「ユーリックと言うやつだ。帝都大学の学生になってる」
「大学ならこの奥の方ですよ」
僕は門を入って左の通路にリリーを案内した。
「じゃあ、あたしたちは酒場にいるから」
タバサとリズはそこで別れた。
石作りの都市の中は思い思いに人が行き来して、活気に満ちていた。
何処からか、鍛冶屋だろうカンカンと鉄を打つ音も聞こえてくる。
いらっしゃい、いらっしゃいと、出店の物売りの声も聞こえる。
確かあの建物だったはずだ。
三階建てのがっしりした建物に帝都大学と看板がかけられている。
僕はリリーを引き連れて、入り口のドアを押し開けた。
中は広いフロアになっていて、僕らを見とめると、すぐに耳の尖った種族の女性が寄ってきた。深緑色のゆったりした魔導師ローブをまとっている。
「あら、初めての方ね。どんな御用かしら」
その女性は僕とリリーを交互に見てそう言った。
「ユーリックって学生いるだろ。届け物持ってきたんだ」
リリーが巻物を片手に言った。
「わかりました。呼んできますからそこの椅子にかけてお待ちください」
そう言ってその女性は奥に引っ込む。
木製の二人がけの椅子にリリーと並んで座っていたら、学生らしき三人が寄ってきた。男二人と女が一人だ。三人とも身なりが整っていて、いかにも金持ちのご子息ご令嬢と言った雰囲気だった。
「あんた達、どこから来たの?」
女子学生が聞いてきた。横柄な言葉使いだ。
「ホワイトホースから、こちらの学生さんにお届け物を持って上がりました」
リリーは知らんぷりしていたから、僕が答える。
「汚い身なりだなあ。風呂とか入ってるのかよ、臭いぞ」
男子学生が鼻を摘んで顔をしかめた。なんか感じ悪い奴らだ。
リリーがすっくと立ち上がった。
おっ、と三人組が身構えるが、外で待つぞ、と言ってリリーは学生たちを無視したまま歩いて行く。
感じ悪い奴らに何か言い返してやりたかったけど、黙って僕もリリーについて外に出た。
リリーって案外大人なのかな。
外で暫く待つと男子学生が一人出てきた。
「僕がユーリックだけど……」
背の高い痩せた学生だった。さっきの感じ悪い三人組と比べて、身なりも普通だ。
「これ、ホワイトホースの親父さんから預かってきたよ。これにサインお願い」
リリーが巻物を渡して、受領書にサインを求める。
無事に一仕事終了だ。あとは受領書を持って帰れば残金の170G貰える。
でもなあ、僕の精液一瓶1000Gで売れたことを思うと、なんだかなとなってしまう。
リリーはどう思ってるんだろう。
そんなことを考えていたら、ユーリックの後ろのドアが勢い良く開いた。
中からさっきの学生たちが飛び出してきた。
その学生の一人が、驚くユーリックの肩を叩いて言った。
「魔女の処刑があるらしいぜ、見に行こう。中央広場だって」
誘われたユーリックは、彼らと一緒になって駆けだすようなことはなかった。
溜息交じりに悲しい顔をしている。
「魔女の処刑って何ですか?」そう聞く僕に彼は丁寧に教えてくれた。
「チュードンでは魔法使いは許可制になっているんだ。無許可で魔法を使うのはご法度。見つかると捕まって公開処刑されるんだ」
「その人が魔女っていう証拠があるんですか?」
中世の魔女裁判、あらぬ疑いをかけられた無実の人が、拷問にかけられて無理やり自白させられて処刑される。
そんな記憶がふと浮かんできた。
「証拠も何も、一昨日の事だけど、光とともに中央広場に舞い降りたって話だよ。僕は見ていないけど、目撃者はたくさんいたらしい」
ユーリックはまるで見えないものでも見るかのように、斜め上を見上げた。
「その人の処刑が今からあるってことですか」
「そう言うわけだ。釜茹での刑にされる。あれは見ない方が良いよ。残酷すぎるよ」
それだけ言ってユーリックは大学の中に戻っていった。
ユーリックの言い方だと、以前にも釜茹での刑で処刑されることがあったようだ。
やっぱりこの世界怖いな。
「行ってみようぜ」リリーは学生たちが向かった方向に歩きだした。
「でも、見ない方が良いって言われましたよ」
僕としては残酷な場面はあまり見たくない。
「現実はちゃんと見ておかないとだめだ」
リリーの言葉は、単なる野次馬根性というわけではないようだった。
「それも、おじいさんの格言ですか?」
僕が聞くと、なんでわかるんだよとリリーはふくれっ面で答えた。
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