第22話 もう一人の転生者(1)


 はあ、満腹満腹と。

 寝ている農夫の部屋から出てみると、食事が終わったのかリリーはテーブルに突っ伏していた。


 よだれ垂らして寝込んでいる。

 一日中歩き詰めだったからな。僕はしばらく横で彼女を見守っていた。

 この娘、本当に勇者なんかになれるんだろうか。


 だいたい、勇者ってなんだ?

 ゲームでは魔王を倒して世界の平和を取り戻すのが勇者の使命なわけだけど、この世界にそんな魔王なんているのだろうか。


 ゲームの中だったら、いくつかのクエストの先に倒すべき魔王が自然と現れるものだけど、今のところこの娘にそんな目的があるようには見えないし。

 

そんなことを考えていると、ぐすぐすっと鼻をすすってリリーが目を覚ました。


「あ、俺寝ちゃってたか。お前はもう済んだの?」

 右手の袖で口元を拭きながらリリーが尋ねる。


「はい。満タンになりましたよ。テント張って寝ましょうか」

 買い物で重くなったリリーのリュックを僕は背負った。


 酒場を出る僕の後ろをリリーがよたよたしながら着いてくる。

 暮れかけた空は西の方が茜色で、星も明るくなりつつあった。


 城門の外の左側に、少し空き地がある。

 ここでは宿に泊まる程の金のない、僕たちみたいな旅人がよくテントを張ってるんだろう、傍に薪炉も作られたままだ。


 リリーは休ませておいて、今夜は僕一人でテントを張る。

 昨日リリーのやるのを見ていただけだけど、スムーズに手が動いてあっという間に立派にテントを張ることができた。


「お前、なかなか手際良いじゃないか。俺が張るより早そうだったぞ」

 リリーが喜んでる。


「そりゃあもう。ご主人様の喜ぶ顔が見たいですからね」

 嫌味のつもりで言ったけど、彼女はふんふんとうなずくだけだ。

 

 でも、僕ってこんなに物覚え良かったかな?

 

 ふと見ると、城門の裏の方にキノコが生えているのが見えた。

 クロカサダケにベニテングダケか、薬草には使えるけど、食べられないな。

 何の気なしにそう思った後、不思議になった。


 こんな知識、僕は持っていただろうか?

 ここに来るまで歩いてきて、何度か目にしたキノコだったけど、今みたいに思ったことはなかった。


 どうして僕は本を読むこともなく新しい知識を得られたのか。


 考えるに、さっきのエッチの時の事しか心当たりはない。

 いつもとは違ったエッチの仕方をしたのだ。

 農夫の精液を、お尻ではなく一度だけ口で呑み込んだ。

 

 もしかしたら、精液を飲んだら、その男の知識を吸収することができるのかもしれない。


 キノコの知識と農夫だとしっかり関連ありだ。


 他にないかな。農夫の知識として僕の中に入ってきたものを探す。

 農耕器具の使い方、それがふんわりと浮かんできた。


 それは今すぐ役に立つものではなかった。

 でも、食べられる野草の種類だとか、サバイバル上で役に立つものもいくつかあった。なるほど、これは使えるな。


 今度からエッチをするときは一度は口で飲んでからにしよう。

 そんなことを考えていたら、リリーが、もう寝るぞと言って寝袋に入った。

 

 僕も裸になってその横に入る。

 今日はたくさん歩いたし、お尻で受精もできたし、よく眠れそうだった。


 そうだ、今のうちにちょっと聞いてみようかな。

 僕は横のリリーに尋ねた。まだ眠ってはいないようだし。


「リリーさん、リリーさんはどうして勇者になろうと思ったんですか?」


「なんでって言われてもなあ。格好いいじゃん。それに白炎の大剣なんてもらったら、勇者やってみようと思うだろ」

 面倒くさそうにリリーが答えた。


「でも、勇者として何をするんですか? 悪の大魔王を倒すんですか?」


「まあそのうちな。もう少し強くならないと大魔王は無理だろうし。だいたい大魔王がどこにいるのか知らないし。今は経験値積むことかな。まだレベル低いし」

 眠たそうな声でリリーが言う。


「経験値とかレベルとか、まるでロールプレイングゲームみたいですね」

 僕が言うと、リリーがぴくんと跳ねた。


「ロールプレイングゲームって言った?」

 リリーがこっちを向いて聞いた来た。

 この世界では存在しない言葉だったろうに、リリーは素早く反応した。


「意味わかるんですか?」

 僕も聞き返す。


「もしかして、お前も前世のこと覚えてるの?」

 質問合戦だな。


「お前もって、リリーさんも転生してきたんですか?」

 もう寝ていられる状況じゃない。僕は素早く寝袋から飛び出た。

 リリーも起き上がってきた。

 

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