第18話 キャンプ
三時間ほど歩いて、いい加減疲れも溜まってきた。
「リリーさん、そろそろテント張りましょうよ。疲れましたよ」
前を歩くリリーに声をかける。
夜空は薄い雲がかかって星はあまり見えない。
月明かりも弱く、周囲の狭い範囲がリリーのランタンの明かりでふんわりと浮かんでいる。
「そうだな。あそこから川の方に降りれるみたいだから、川沿いにテント張るか」
リリーが道からそれて河原の方に降りていく。
ランタンの光が途切れて足元が見にくい。僕はよたよたしながらリリーの後を追った。
そうだ。川沿いなら狼に襲われても逃げやすいな。
そんなことを思いながらリリーを手伝って、何とかテントの設営も済んだ。
「じゃあ、岩を集めて、焚き火炉を作るから」
リリーの言うとおりに事を進めていくと、30分程度でキャンプの準備が整った。
さすがに外の世界に慣れているんだな。頼りになる相棒かもしれない。
僕が焚き火炉を作ってる間にリリーが集めてきた枯れ木をまとめて、それに火をつける。
火をつける作業は魔法じゃなくて火打石だった。
やはり、小さな火でも魔法でつけるのは特別な才能が要るようだ。
炎が大きくなるにつれて気分も良くなっていく。
キャンプファイヤーっていいなってしみじみと思ってしまう。
「じゃあ、今度は食い物の調達だ」
リリーはそう言って背中の白炎の大剣をすらりと抜いた。
おお、すごい。暗い中で刀身の白い煌めきがひときわ鮮やかに光った。
でも、それで何を狩るんだ?
リリーはそのまま川の方に行く。流れに浸からないように岩の上を進んで、少し深いところまで行くと、その大剣を川に差し入れた。
途端にジュバっと音がして、川面が光った。
「おい、そこ浮いてるぞ」
リリーの向いてるところを見ると、川魚が何匹か浮いてるのが見えた。
流されていくのを追いかけて掴み上げる。腰まで濡れてしまった。
先に言ってくれてればいいのに。
そうやって夕食になる程度に魚を捕まえることができた。
リリーはナイフで魚の腹を裂き内臓を取り出すと、簡単に塩を振る。
それを串に刺して、火のそばにさした。しばらく待つと魚の焼けるいい匂いがしてきた。
お腹が鳴るなあ。美味しそうだ。
「白炎の大剣って、電気を放電できるんですね」僕は訊いてみる。
「電気とか、放電とか知らないけど、こういう使い方できるんだよ。じいちゃんがやってた」
「それって、何度もやってると使えなくなったりしませんか?」
放電ばっかりやってると空っぽになるはずだ。
「そうだな。だいぶ減ってきたから、ちょっと刺しとくか」
リリーはそう言って剣を抜くと、近くの地面に突き刺した。
「嵐の時に刺しておけば、一晩で完璧になるんだけど、今夜は半分くらいかな」
そう言った後、リリーは、焼けてるぞと言って魚の串を一本引き抜いた。
取れたての魚の塩焼きは、ちょっとしょっぱかったり薄味だったりしたけど、空腹も手伝ってとても美味だった。
考えてみれば普通に腹が減るな。
狼男の精を受精してから、丸一日たっているからな。
また受精したい。お尻が疼いてきた。
「じゃあ。そろそろ寝るか」
腹も膨れたところで、リリーが寝袋を広げた。
「一個しかないんですか?」そう聞く僕に、
「あたりまえだろ。でも、これじいちゃんが使ってた大人の男用だから俺とお前なら二人入れるよ」
そう言ってリリーは革鎧を脱ぐと、下着姿で封筒型の寝袋に入った。
ほれ、こっちいいぞっと隙間を開けてくれる。
リリーには僕が男だという認識が欠けてるんだろうか。
初対面のあの場で、僕のおちんちん見てるくせに。
僕、男ですけど、いいですか? そう聞こうかと思ったけど、やめた。
忘れてた、やっぱりダメだって答えられたら僕も困る。
でも、ローブを着たままではかさばって寝袋に入りにくい。
「お前馬鹿か、上着は脱ぐに決まってるだろ。さっさとしろ」
「でも、僕下着着てないし」
「奴隷なんだから、裸でいいよ」
そうか。
リリーはまだ僕のことを奴隷だと思ってるのか。人間と認めてないから裸でも関係ないってこと?
でも、一緒の寝袋に入れてくれるのは大事に思ってるってことだよな。
なんだかいまいち、この世界の考え方になじめてないようだった。
僕はローブを脱いで全裸になると、向こう向きのリリーの横にするりと身体を入れた。
布と毛皮で作られた寝袋は、ほんわかと温かだった。
大きめとはいえ寝袋の中ではどうしても身体が密着してしまう。
リリーの方を向いて横向きになると、太ももにふんわかしたリリーのお尻を感じる。
リリーの首筋から若い女性特有の甘い香りも漂ってくる。
普通の男だったら、我慢できずに抱きしめて勃起した物をこのお尻のはざまに突き入れたくなる筈なのだが、今の僕はそこまで欲求を感じなかった。
女を抱きたいとかセックスしたいとか、そういう気持ちにならないのだ。
やっぱり僕が男の娘サキュバスだからそうなのかな。
少し寂しい気持ちがした。
まあいいか。
そう思って身体を仰向けにする。
目をつぶって眠りに入ろうとしていたら、股間にくすぐったい感触があった。
いつの間にかリリーがこっち向きになって、その手が僕の股間に伸びてきていた。
「どうしたんですか、リリーさん。くすぐったいですよ」
首だけ向けて僕は言った。
「思い出したんだよ、お前男だったって。顔が女の子だからすっかり忘れてた」
だから出て行けって命令されるのかと思ったら違った。
「男って、この状況だったら欲情するものじゃないのか?」
まだ柔らかい僕のペニスを握りながら、不思議そうにリリーが聞いてくる。
僕は実は男の娘サキュバスなんです。言ってしまおうかと思ったけど、まだ止めておく。
この秘密は僕の唯一の武器なんだから。
「昨夜、あのおばさんたちに一滴残らず吸い取られてしまったんですよ。男って言っても、精子溜まってない時はどんな状況でも欲情しないですよ」
「そうなのか。でもこれって柔らかくて触り心地いいな」
リリーの指が僕のペニスの先っぽの余った皮をふにふにしてる。
そうかと思うと、今度はタマタマの方をもみもみしだした。
「ここって、急所なんだろ。殴られると悶絶する?」
「そりゃ、痛いというか苦しくて、立ってられないくらいですよ」
僕が答えると、このくらいは? と言ってかくんとそこを握った。
いたた! 膝を曲げて逃げようとしても狭い寝袋の中じゃどうしようもない。
「そうか。じゃあ、明日蹴らせてよ。戦闘訓練だよ。どのくらい蹴ればどの程度のダメージか。知っておきたいから」
リリーはそう言うと手を離して向こうを向いた。
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