第17話 冒険の始まり


「でも、白炎の大剣なんてすごい武器もってる割には、慎重なんですね」

 重い荷物を担いで首長の城への階段をのぼりながら、僕はリリーに聞いてみる。

 もう午後の日差しが斜めに影を長くしていた。


「だって、まだ勇者になって一か月だもんな。無理は禁物だぞ」

 前を歩くリリーが振り返って言った。

 勇者になって一ヶ月って、それって単に勇者の格好をしただけってことじゃないか。


「じゃあ、その白炎の大剣はどうしたんですか?」

 初期装備ってわけでもないだろう。

「ああ、これ、実はじいちゃんの形見だ。死ぬときに、これをお前にって渡された」

 そうか。では一応勇者の家系なんだな。

「じゃあ、おじいさんは勇者だったんですね」

「いや、木こりやってたよ。これは洞窟で拾ったって言ってた」

 まあ、そんなところだろうな。


 階段を上りきったところで、


「なんの用だ?」

 城の扉を守っている衛兵が聞いて来た。


「これのことで」

 リリーが懐から張り紙を取り出してみせた。

 衛兵に扉を開いてもらって、僕らは天井の高い城の中に通される。

 高いところの明かり取りから光がさして、微かに埃が舞うのが見えていた。


 大広間の奥が一段高くなっていて、首長の椅子がある。

 椅子にはヒゲを生やした初老の男がふんぞり返っている。

 その傍に居るのがたぶん補佐官かな。


 リリーが補佐官と話してる間、あんまりうろちょろするなと注意されない程度に僕は周囲を見て回った。


 この城の感じもゲーム内で出てきた城と同じようだ。

 町の内部も、建物の内部も、さんざんやりこんだゲームだったから、その地図は頭の中に入っている。


 これって、少しは役に立つかな。


「よし、じゃあ行くぞ」

 リリーが奥から戻ってきた。



「どんなかんじでした?」

 二人で城を出たあとリリーに訊いてみる。

「軽い荷物でよかったよ。これをチュードンにいるあいつの息子に持って行って欲しいって。前金30貰ってきた。息子から受取証もらってきたら残りの報酬くれるってさ。個人的な用事だから軍人とか家来は使えないんだって。律儀だね、案外」

 リリーは僕の背負ってるリュックの中に、その巻物をねじ込んだ。

 魔法の巻物とかかな?


「そろそろ日も暮れるし、今日は宿屋に泊まりますか?」

 僕の言葉にリリーが首をふった。

「金がもったいないだろ。行けるところまで行って、今日は野宿だな。テントも寝袋もあるから大丈夫」

「でも、狼とか怖いですよ」

「この剣があるから大丈夫だって」

 さすがは勇者なのか、脳天気なだけなのか。


 でも、木こりの生活してたのなら町の外の危険もわかってるだろう。

 あんまり疑うのも悪い。納得して着いて行くことにした。


 

 家々から夕食の支度をする匂いを嗅ぎながら、通りを抜けていく。

 いよいよ冒険の始まりだよなあ。


 奴隷の買主とはいえ仲間もできたし、気持ちはワクワクだ。

 城門を出て少し行くとT字路に出る。右が西方向。

 チュードンはそっちにあるはずだ。



「お前、道わかるのか?」

 僕の後ろで、リリーが聞いて来た。

 解ると思いますと答えると、それは助かるな、地図って意外と高いんだよなと笑った。

 がさつで口の悪い少女だけど、リリーの笑顔は素直で可愛かった。


 さてと、冒険の始まりだな。

 とりあえず、今夜の野宿の場所まで、この荷物、結構重いけど頑張って担いでいくか。

 リリーが僕の後ろで大きく伸びをした。


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