第15話 ホワイトホースの奴隷市場
まるで二日酔いでもしたように頭が痛い。
起き上がろうとしても、手足の自由が利かなかった。
「目が覚めたかい。もうすぐホワイトホースにつくよ」
金髪おばさんの声が後ろから聞こえてきた。
前を見ると、子供たち四人、その子供たちも今の僕と同じように手足を縛られていた。
「どういうつもりですか。解いてください」
思い切り凄んでやったが、僕のこのキャラでは威嚇しようにも怒った子ウサギ程度にしかならない。
中年女二人はけらけら笑っている。
「ホワイトホースに行きたかったんだろ。望み通り連れてきてやったんだからありがたく思いな。その料金として、お前を競りにかけた代金を受け取るから」
僕を競りにかける? もしかして、この子供たちも競りの商品なのか?
何という事だ。こいつら、商人は商人でも奴隷商人だったのか。
こういう時、ヒーローだったら、こんな奴らやっつけて子供たちを解放してやるんだろう。
でも現実は甘くない。僕にはそんな力なんて無いのだ。
僕は実はサキュバスなんだよ。僕の精液を飲めば若返ることができるよ。
そう言ってみる作戦を考えたが、奴隷市場で売られることと比べて、状況が好転するようにも思えない。
とりあえず様子を見るしかないか。
男に買われれば、脱出するのは簡単なのだ。
ガラガラという鎖の音が聞こえた。
城門から街に入ったみたいだ。なんて言ってるのかわからなかったけど、人の声も聞こえる。
「着いたよ。降りな」
金髪おばさんは僕の足縄だけ解くと、僕を引き起こした。
手が縛られたままで動きにくい。よたよたしながら馬車を下りた。
外は真昼だった。青空から降り注ぐ陽光が目に痛いほどだ。
後ろで泣き声が聞こえたから見てみると、同じ馬車に乗せられていた子供たちが悲しげな声をあげているのだった。農村で売られてきたのか、どこかの町でさらわれてきたのか。
幼児虐待とか、ゲームの中では表現されていなかった部分だな。
これがゲームではなくて現実だという証拠かもしれない。
「君たち、まだ希望を捨てちゃだめだよ。生きていればいいことだってきっとあるんだから」
子供たちにそう言ってはみたけど、こんなのきれいごとだって、自分が一番わかっている。
ほら、黙って歩けと言われて連れてこられたのは、円形の広場。
正面に一段高くなったステージが作られていた。
この広場にも見覚えがある。
周囲に出店があって、普段はこのステージは無いはずだ。今日は奴隷市という事で特設されたのだろう。
ほら、上がれと言われて、僕ら奴隷たちはステージに並ばされた。
周囲に人が集まってきた。好色な眼、興味本位の眼、同情の色を少しだけ含んだ視線、蔑みの目つき、いろんな人間が集まっていた。
その群衆を見守るように、鎧を着てさらに兜までかぶった衛兵が何人か外側を固めていた。
「ではでは、奴隷競りを始めます。みんな選り抜きの美少女たちだよ。はい、じゃあこの子、300から始めるよ」
並ばされている中で、僕から一番遠い端の子が手を引かれて少し前に出された。
手を縛った縄も解かれて、その場で着ていた衣をはぎ取られる。
全裸にされたその子の悲鳴が響く。
ああーんと泣き声をあげる女の子を、周囲の眼は面白そうに眺めていた。
更にその子は後ろの男から膝を抱えられた。大きく股を広げて股間を衆人環視のもとに晒される。
いやあーという羞恥の叫び声が、周りの男たちの欲情をそそっている。
「ほらほら、きれいなピンク色だろ。まだ処女だよ」
面白そうに煽り立てる奴隷商人の女に、初めて怒りの炎が燃えがる。
殺意が湧くほど怒りを覚えても、僕には歯ぎしりするくらいしかできる事はなかった。
350,370そんな値が叫ばれるなか、400という声から先はない。
「はい、400で落札と。じゃあそっちで精算してくださいね」
金髪女が言うと、その女の子は男に手を引かれて壇上から消えた。
残り三人の子供たちが同じように壇上からいなくなって、僕一人が残された。
「はい、最後は少し年上だけど、見てくださいな、この美貌を。わたしゃこの年まで奴隷商人やってるけど、ここまでの美少女は居なかったよ。じゃあ、この子は1000からだ。ほら、この美少女の裸も見せてあげようね、紳士諸君の皆様に」
金髪女はそう言って、僕の手の縄を解いた。うひひひと笑っている。
そして別の男が僕のローブを脱がそうとする。もちろん僕は抵抗するけど、力ではかなわない。
右手を後ろにひねられて動けなくされた隙に、金髪女にローブをはぎ取られてしまった。
ノーパンの僕は即全裸だ。
「ぎゃはは、何が美少女だよ。そいつ男じゃねーか!」小高い叫び声が聞こえた。
たちまち周囲が笑いの渦になった。
「え? 何だって?」
金髪女が僕の前に回ってきた。その視線が僕の股間に突き刺さる。
「お前、男だったのか。くっそー騙された。これじゃあ売り物にならないね」
悔しそうに歯ぎしりするその奴隷商人を見ていると、馬鹿な奴だと少しだけ溜飲が下がる。
でも、こんなに可愛く作った男の娘キャラに値がつかないのはプライド傷つくよなあ。
男の娘好きは居ないのかしら。
身体を隠すようにしゃがんだままで周囲を見まわすが、男たちの眼は好色の色を帯びていない。
いっそのこと、ここで皆にお尻を見せて混乱させてやろうか。
そんなことを考えてると、声が上がった。
「100なら出してもいいぞ。売れ残っても困るだろ」
最初に僕のことを男だって笑った小高い声がそう言った。
しょうがないね、それでいいよ。とおばさんが答えて、僕はそのままステージを下ろされた。
僕を買ったのはどんな男だろう。
まあ、どんな男でも逃げだすのは簡単だ。
僕は渡されたローブを羽織って買主の来るのを待った。
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