第11話  混乱



 一瞬足音がやんだ。


 四つん這いの足の間から見てると、最初入ってきた男は僕のお尻を見た途端、武器を捨ててよろよろと僕の方に近づいてきた。

 


 僕のお尻にキスする兵士。

 でも、その兵士は後ろから来た男にどつかれて横に吹き飛ばされた。


 二番目の男が僕のお尻にキスすると、すぐに三番目の男がやってきて……。


 これがずっと続くのか? だったら軍隊全滅じゃないか。

 と思ったけど、もちろんそううまく行くわけじゃない。


 僕のお尻を取り合って乱闘をしているのは最初に入ってきた十人くらいだ。



「おい、何やってる」


「気をつけろ!そいつの尻を見るな。混乱魔法を出しているぞ」


 そんな声が聞こえて、僕のお尻に布が被せられた。

 たちまち布とロープでぐるぐる巻きにされた。

 頭だけ出したミノムシ状態だ。


 乱闘していた男たちも取り押さえられ、指揮官らしき赤い特別な鎧を着た兵士が僕の横に立った。



「お前、何者だ? アマゾネスの手下か?」


 剣をすらりと抜いて、振りかぶった。

 今にも首を切り落とさん、という意思が煌く刀身に透けて見えるくらいだった。


「違います、そんなんじゃないです。僕は近くの村から拉致されてきたんです」

 必死な僕の願いがかなったのか、指揮官は少しだけ剣を下げた。


「ではなぜ我々に混乱魔法を投げかけたのだ?」


「わざとじゃないですよ。僕のお尻見たら男は魅了の術にかかってしまうんです。生まれつきの僕の性質みたいです。いや、呪いかな。アマゾネスたちは、その僕を利用して逃げたんです」



 ちょうどその時、奥を見に言っていた兵士が戻ってきた。


「奥にアマゾネスは誰もいません。奴隷が何人か残ってましたが、女どもは裏口から脱出した様です」


 首をあげてそっちを見ると、兵士と、奴隷たちがぞろぞろ近づいてくるところだった。



「お前たち、こいつの事は知ってるか?」

 指揮官が助け出された奴隷の一人に訊いた。


 その奴隷が僕の顔を覗く。一瞬にやりとした。

 サキュバスってばらされるかな。それは少しまずいような気がするけど。


「こいつは俺らの性欲処理係ってことで拉致されてきたみたいですよ。一週間くらい前だったかな。俺らに預けてくれれば後は面倒みますから」


 彼はそう言って指揮官に頭を下げた。


 どういうつもりだろう。また僕のお尻を犯したいと思ってる?

 それよりかサキュバスの精液を搾り取って売ろう、とか考えてるんだろうか。



「そういうわけにはいかんな。こいつは尻から魔法を出している。危険な奴だからな。しかし、アマゾネスの仲間というわけでないのなら、ここで殺してしまうのも哀れだ。という事で、こいつはわが軍の魔導士に尻魔法を封印してもらう事にする」


 そう言った後、連れて行けという命令で、僕は部下の兵士に荷車に乗せられた。




「どこに連れて行くんですか?」

 僕は荷車を引いている兵士に聞いてみた。


「グリスファーに行くらしいぜ。ここからは一番近いからな。そこに軍所属の魔導士もいるから」


 振り向いた兵士の顔は見覚えがあった。


 僕のお尻に最初に寄ってきてキスした兵士だった。

 もう魔法は解けたみたいだ。



「さっきは、ごめんなさい」

 謝る僕に彼は笑顔を見せてくれた。

 恨まれてると思っていたのに、ちょっと驚きだ。



「まあ、事情は聴いたけどな。俺自身憶えていないんだよな。お前の尻穴見たところまでは覚えてるんだけど、そのあとは真っ白だ」


 そういう事なのか。


 だとしたら、最初に会ったおじさんや狩人も、今度会っても僕とエッチしたことを覚えていないかもしれないな。



 荷馬車に揺られながら、僕は眠くなってきた。


 疲れもあるし、目を閉じるとじんわりと眠りの世界に沈んでいった。


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