2 トビウオ

インプット元:とある海洋ドキュメンタリー

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 昔、世界の果てと、その間に空と海だけがあった頃、空と海の境界は動き続けていた。空の民が産まれれば空が広がり、海の民が産まれれば海が広がった。そうして幾度も境界が波打つうちに、それぞれの民は増えすぎてしまった。


 空と海の争いが起きるのは必然だった。空の民が死ねば海の民の領域が広がり、その逆も然りだった。何より、彼らの同族が死ぬことでも住処に空きができたので、殺し合いは良いこと尽くしだった。境界は荒れ狂ったが、激動による均衡がそこにはあった。


 彼は突撃が得意だった。彼の翼は海を弾き、海に飛び出した後も敵を潰すことができた。彼女は突撃が得意だった。彼女のヒレは空を切り、空に飛び出した後も敵を断つことができた。


 彼らは境界を荒らした。彼は海を守っていた民の身体を潰し、彼女は空を守っていた民の身体を断った。しかし彼らも相手の領域に長く留まることは出来なかった。普通なら限界が来る前に死ぬことができたが、彼らは強く、死ぬ前に戻らなければいけなかった。


 飛び出ては戻り、飛び出ては戻り、ひたすらに繰り返して、ついに彼らは出会った。彼らはお互いに攻め合ったが、どちらも死ぬことはなかった。彼女はしばらく空で攻め合うと、時間が来る前に彼を海に引き込んだ。彼はしばらく海で攻め合うと、時間が来る前に彼女を空に引き込んだ。彼らは突撃が好みだったので、お互いに押し合い、境界とその周辺を盛大に荒らした。


 しばらくして、彼らはお互いを吹き飛ばした。当然彼らは死ななかったが、その時、辺りから彼ら以外の民が居なくなっていることに気が付いた。彼らは戦いの中で、空と海の民を巻き込み、殲滅してしまっていた。境界の動きも少し落ち着いた頃、彼らはお互いに興味を持った。生まれた興味は止められず、彼らは好きなように交流した。その過程でさらに別の民も巻き込んだ。


 彼らは空を飛び回って、彼らは海を泳ぎ回って、唐突に、彼らに無数の攻撃が浴びせられた。それは空や海の、彼ら以外の民の報復だった。彼の身体は潰れ、彼女の身体は断たれた。しかしそれでも彼らは止まらなかった。彼らはどちらがどちらか分からなくなっても止まらなかった。それどころか、攻撃を浴びせた他の民も巻き込んで、その残骸すら引き込み始めた。


 彼らはどんどん引き合って固まり、空と海を侵食する大地になった。今までの民の残骸すら彼らに加わり、彼らはついに世界の果てに届いた。大地は海の果てに押しついて底を作り、空の果ては耐えられず壊れた。果てが壊れたことで多くの大地が飛び散り星になった。その中でも特に大きかったものは、星になってからも動き続ける太陽になった。


 そのうち、残骸でない、まだ生きている民さえ大地に引かれるようになり、距離に多少の違いはあれど、民たちは大地無しでは生きられなくなってしまった。そうして世界は変わったが、空と海の境界は今も変わらず波打ち続けている。

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