終幕 非合法存在

「はぁぁあ。水が美味しい」


 メイドが用意してくれたミネラルウォーターを飲む。


「メイド。これなんて水? こんな美味しい水、初めて飲んだ」


「世界樹の雫です。…………別名、エリクサーとも言います」


 なんか最後の方は聞き取れなかったけど、へえ、世界樹の雫って言うんだ。

 富士の水みたいなものかな?

 気の所為だろうけど、飲むだけで体力や気力が回復しているような気になる。


「その水は喉にもいいですよ。あんなに喘いだ後ですと、喉にも負担が掛かった事でしょう」


「うっ。あまり、思い出させないでよ……」


「私としては、是非とも思い出してほしい所です」


「な、なん、で?」


「お嬢様。私の事を『メイド』ではなく、『シヴァ』と呼んでくれると言いましたよね?」


「言った、ような、言ってない、ような……」


 嘘じゃあない。

 セックス中の一部記憶が曖昧な所がある。

 メイドはニコリと笑顔を見せると、どこからかスマホを取り出して操作した。


『ひゃあ♡ やだ。やだ♡ 謝ります♡ ごめんなさい。ごめんなさいぃぃぃ』


『お嬢様。何を謝るのてすか?』


『処女を無理矢理奪って♡ ごめんなさいっ。だから♡ もう。イカせないでよ♡』


『別に怒っていませんよ。メイドたるもの主に対する閨の対処程度、料理や掃除といった日常業務と変わりません』


『あっああ♡ やだやだやだ♡ なんでも言う事聞くぅ♡ だからぁ』


『そうですね。でしたら、私をお嬢様のメイドと認めてくれますか?』


『認めるぅ♡ 認めますう♡ あっ。あぅうう♡』


『ありがとうございます。お嬢様。ついでに私の事は、メイドではなく、シヴァとお呼び下さい』


『シヴァ♡ シヴァ♡』


『ふふ。とても可愛いですよお嬢様。でしたら、同冥達マーラとアスモデウスからの経験によって磨かれたテクニックで天国にイカせて上げましょう』


『えっえ♡ や♡ たひゆ♡ 助けぇ♡ ひゃああ♡』


「きゃああああ!!」


 きっと私はトマトのように顔を真っ赤にしているだろう。

 慌てた私は、シヴァからスマホを取り上げるため立ち上がり、シヴァへ飛び掛かる。

 しかし、シヴァは私の攻撃をかわし、笑いながらスマホを手渡してくれた。


「お嬢様。スマホが欲しいのでしたらどうぞ。因みにですが、録音データと録画データは、クラウドにアップデートしていますので、その端末からは削除は不可となってます」


「ぐぅ」


「後、そちらは元々お嬢様のモノとなってますので、おかえしするつもりでした」


 手渡されたスマホをよく見ると、私が持っていたスマホだった。

 自分の痴態がスマホに録音と録画のデータがあるなんて、どれだけの罰ゲームなの!


「うう。年上の合法少女メイドに好き勝手されるなんて――」


「年上の合法少女メイド……ですか?」


「え。シヴァってAVとかのロリ物に出てくる幼い感じに成年している感じなんでしょう?」


「私は未成年ですよ? 歳は13歳となっています。先程のお嬢様の言葉を借りるなら、非合法少女メイドです」


「う、うそ。あ、あれよね? メイドジョーク?」


「いえ。事実です。――ああ、私が成人していると勘違いしていたから、悪事さまが居た時に肉体関係がとうこう言っていたのですね。これが探索者カードですので、ご確認ください」


 手渡して来た探索者カードに記載されている生年月日を確認した所、確かに13歳だった。

 偽物の可能性も考えたけど、探索者カードの偽造はマイナンバーカード偽造の倍以上に厳しい刑罰があったハズ。わざわざ偽造するにしても、年齢を誤魔化すためだけに作るのはリスクが合わない。


 シヴァはガチで13歳な可能性が大。

 え。つまり、私は13歳――中学生を犯して処女を奪って、逆に犯されたということ?

 しかも朱雨悪としたセックス以上に気持ち良かった。朱雨悪の場合は、ある程度は私を気遣ってくれたけど、自分の快楽優先のセックスだった。でも、シヴァとのセックスは、私の弱点を的確に付いてきて、私を一番気持ち良くしてくれた。

 じゃなくて!!

 

「ご、ごめんなさい。私、シヴァはてっきり成年しているかと思って、それでっ。警察に自首」


「お嬢様。先程も言いましたが、メイドにとって主との閨は一般教養の範疇です。お気になさらないで下さい」


「で、でも」


「どうしても気になさると言うのであれば、私をメイドとして生涯側に置いていただくだけで構いません」


「わ、分かった。シヴァは私のメイドとして側に置く」


「ありがとうございます、お嬢様」


 シヴァは頭を下げて言った。

 ……どうしてシヴァは、私なんかを主にしてメイドとして仕える事にしたんだろう。

 私を一番大切にしてくれる事には間違いない。でも、その理由がわからない。

 聞いたら答えてくれる気がするけど、聞くのが怖かった。

 あれ、待って? さっき生涯って――。


「さて!! お嬢様。現状を私が説明させて頂きます」


「は、はい」


 何か無理矢理に話を変えられた気もしないではない。


 シヴァは私が青木ヶ原樹海ダンジョンにて朱雨悪に囮にされてからの事を話してくれた。

 どうやらアレから、もう二ヶ月も経っているらしい。

 シヴァの知り合いの尽力もあって今でこそ全回復しているけど、私はいつ死んでもおかしくないぐらいの瀕死の重体で、ようやく今日になって意識が回復きたのだと言う。

 ……意識が回復した当日に、メイドが現れたり、アイツが突然来て絶縁状を渡して来たり、イベントが多すぎない?


「また、お嬢様が通っていた思金大学ですが、お嬢様はゴブリンに輪姦された事になっております」


「――え」


「救出した際に血まみれだったのが運悪くマスゴミに流れ、大学内という狭いコミニティでクズ野郎の身元が発覚したこともあり、パーティーを組んでいたお嬢様はゴブリンに輪姦され、登校されない事もあって、専門の病院に入院したとの噂が流れています」


「…………つまり、今まで使っていた偽名博麗妖夢は、もう使えないってこと?」


「ネット社会ですからね。一部のまとめサイトには、偽名博麗妖夢が掲載されていますので、偽名を使い続けるのは厳しいのが現状です」


「……そう。なら、いいや。正直、博麗妖夢は朱雨悪に囮にされた時点で死んだと思うから。それに、アイツから絶縁された今。私は、本名で――魄霊冥無として生きることにする」


 それに博霊妖夢という名前は、朱雨悪との間にあった色々な思い出が強すぎる。

 きっぱりと関係を断ち切るためにも、魄霊冥無として生きていくに当たり、偽名の方は捨てるとしよう。


「では、心機一転するにしろ引っ越しをしましょうか」


「えっ。引っ越し?」


「この部屋はあの男ゲス野郎との思い出が強すぎるでしょう。それに、近くには思金大学もありますので、お嬢様の顔を知る人が、たまたま見かける可能性もゼロではありません。いっそ此処を引き払って、新天地で魄霊冥無として新しく生きていくのもありだと思いますよ?」


「……一理、あるけど、私、お金はほとんどないの」


 朱雨悪がお金に困っているから言って来たので、恋人だった私は、貯めていた貯金を切り崩して渡していたからだ。


「大丈夫です。お金ならあります。お嬢様が所持しているデジタル通帳を御覧ください」


 シヴァに促されてスマホにある銀行アプリを開いた。

 最後に見た時は1680円しかなかったのに、桁がかなり増えていた。

 残高が、え、一、十、百、千、万――――。


「ろろろ、ろく、六億円っ。な、なに、このお金!!」


あの男ゲス野郎がせめてもの償いということで、慰謝料として渡してきたものです」


「し、朱雨悪、が!? いやいや、ありえない。朱雨悪はお金を他人に渡すなんて絶対――…………シヴァ、なにか、した?」


「いえ? 私はなにもしていません」


 ニコリと笑顔で答えたシヴァ。


「……一つ聞かせて。朱雨悪、生きてる?」


「たぶん、まだ地面の上で息はしていると思います。会いたいのであれば、なんとかしますが?」


「いい。会ったら、私、朱雨悪を、どうするか、分からない」


 負の感情が噴き上がる。

 バチバチと身体に雷が奔り、天井にあるLED照明に当たり、電球が弾けて割れた。

 部屋が一瞬暗くなるけど、シヴァが指を鳴らすと、まるで逆再生のように元に戻っていき、部屋は明るさを取り戻した。


「確かに、あの男ゲス野郎はお嬢様が手を汚す価値はございません。それで、引っ越しはどうします?」


「シヴァのいう通り……引っ越して、Re・START、する。今度こそ、私は魄霊冥無として生きていく!

……勿論、シヴァも一緒にいてくれるのよね?」


「当たり前です。この冥土シヴァ。お嬢様が生きている限り、死がメイドと分つまで、どこまでもお嬢様に付き合いましょう」




―――――――――――――

とりあえず1章・冥土シヴァはここまで。

魄霊冥無と冥土シヴァの主従物語は始まったばかりです

3章以降で、またメインで活躍しますので、お待ち下さい。

1章は閑話をいくつか掲載してから、2章へと移ります。


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