第7話 境界


 あれ……ここは、どこ?

 目を覚ました私がいた場所は、見たこともない、広々とした草原のようだった。私の周りには高い木々や鮮やかな花々が咲いている。

 しかし、私は自分がどこにいるのかが全く分からなかった。

 周りを見回しても、人や建物などは見当たらない。


「冥無」


 私を呼ぶ声がしたので、思わず振り返る。

 その声は懐かしくて、もう聞くことができないと思っていた声だったから。


「お母さん!!」


 そこに居たの、私のお母さん――魄霊はくれいうつろだった。

 たまらず私はお母さんに抱きつく。


「お母さん! お母さん、お母さん」


 いい子、いい子、頭を撫でてくれる。

 ああ、間違いなくお母さんだ。

 すごく安心する。


「可哀想な冥無……」


「――お母さん?」


「ここは黄泉と現世との境界地。私はココから、ずっと冥無を見てました。辛かったですね」


「うん。うん!」


「もう辛い思いをする必要はありません。ココに私とずっといましょう」


「……ココに…………ずっと?」


「ええ。ココには冥無を悲しませるような存在はしません。それに、ははがいます」


「お母さん、と、一緒に、居られるの?」


「はい。本当はもう少し早く冥無を呼びたかったんですよ? でも、お兄様九鬼の龍に邪魔されて無理でした。でも、貴女が覚醒をしてくれた事で、邪魔な龍を追い払われてやっとと思ったら、今度は妙な世界に阻まれ呼び寄せる事が出来ませんでした。ごめんなさいね」


「ううん、大丈夫。こうしてお母さんとまた会えたんだから、謝らないで」


 草原に水が浸水してきた。

 なんだか……少しずつ眠たくなってくる。


「安心して眠りなさい……冥夢。もう貴女を苦しめるものも、悲しみをあたえるものも、喜びを与えるもの、必要としてくれるものも――全ていないのです。もう全てを忘れて……生きているという事実も忘れて普遍的無意識の海ははの中に沈んでいきなさい」


 なんだか眠くて意識が朦朧としてくる。

 水が浸水していき、もう胸元まで上がってきていた。

 青々として空は、黒く染まり所々に星々が光っている。

 お母さんのいうように、どうせ向こうには、私を必要としてくれる人なんていないんだ。でも、ココならお母さんがいてくれる。ずっと一緒にいられるんだ。

 このまま深い眠りに陥ろうとした時だった。


「必要としているものがいない? 残念。お嬢様を必要としているメイドはいるのですよ!!」


 どこかで聞いたような声が響いた。

 身体全身に糸のようなものが纏わり付き、一本釣りのように釣り上げられると、お母さんに抱かれていた温かさは無くなり、私は絨毯の上に横になって。

 あかしい。起き上がりたいのに、起き上がることができない。


「メイド――?」


「はい、貴女さまに仕える冥土シヴァです」


「なんで、ここに、居るの?」


「お嬢様がいる場所であれば、異世界、天国、地獄、あの世とこの世の境界地、どこにでも馳せ参じましょう」


「そういう、こと、ぅぅ」


 なにこれ。

 体力がほとんどない?

 私を見下ろしていたメイドは、私から視線を外し、小舟の下にいるであろうお母さんに睨みつけながら言った。


「私のご主人様の魂をそちらに連れて行かないでもらえますか?」


「親子の触れ合いを邪魔するなんて、酷い事をする、メイド――」


「普通に触れ合いだけで済ますようであれば、邪魔はしませんでしたとも。ただし、お嬢様に危害を加えようとした時点で、見逃すことは出来ません」


「危害なんて加えませんよ。大切な娘ですもの。だから、私へと返してくださる」


 黒く変色した水が蛟のような象へと変化。胴体を伸ばした4体の蛟は、絨毯を見下ろす。


「一つ教えてあげましょう。母離れ、子離れはありますが、メイド離れという概念は存在しません。故に、私からお嬢様を引き離そうとする時点で私の敵だと認定します」


 メイドは凍えるような冷たい声でいう。

 そして額にはもう一つの眼が開眼していた。


 それは一瞬だった。

 詠唱する時間そのものを飛ばしたような感じだった。


 4体の蛟に、それぞれ雷が直撃。蛟は蒸発して消え去った。

 だけど、その雷は余波でしか無かった。

 その大本は雷で出来た大きな槍である。そこから放たれる雷の余波だけで、蛟を消滅させたのである。


「これは私が開発したオリジナルスペル。『万物破壊する三叉槍トリシューラ』。破壊神シヴァの名を受けた、私だけが単独行使可能な業――。私の怒りがとれほどか……お分かりいただけますよね?」


「……――こわい、こわい、こわい。あなたのような強い存在と正面からぶつかるのは分が悪いですね。仕方ありません。ここは大人しく引きましょう。冥無、母はいつでも、ココで貴女を持っていますよ」


「やだ。お母さん、やだ、やだ、やだよ、わたしも、そっちに――」


「いけません、お嬢様。ここでは、言葉が「力」になります。――私の眼を見て下さい」


 メイドと視線が合うと、額に現れた眼が爛々と輝きを見ると、急激に眠くなり――私は意識を失った。




……

…………

………………




 目を覚ますと、そこは私の部屋であった。

 ベッドの横にはメイドが立っている。

 その顔をみた瞬間。私は怒りのあまり、ベッドから這い出て立ち上がり、メイドの胸倉を掴み詰め寄った。


「よくもっ。よくもっ――。あのままお母さんと一緒にいらせてよ!」


「あのままだとお嬢様……死んでいましたよ」


「別に構わなかった。例え死ぬことになっても、向こうでお母さんと居たかった!! こっちには私を必要としてくれる人は誰も居ないっ。朱雨悪は私を捨てた! アイツも私を必要としてなかった!! お母さんだけがっ、お母さんだけが、私を、私を必要としてくれてるのに――」


「私も、あの亡者ははおや以上に、お嬢様を必要としていますよ」


「嘘つき。お前もどうせ私を捨てて、どっかに行くに決まっている!! 私はもう信じて、裏切られたくないのッ。だから、出ていってよ」


 胸倉から手を離し、玄関に向けて指を指した。


「――お嬢様。どうしたら、私のことを信用してくれますか? 信頼してとはいいません。まずは信用をしてください」


 真剣な表情で訴えかけてくるメイド。

 やめて。そんな眼で、私を見ないでよ。

 思わず信じたくなる。でも、私はもう、誰も、信じたくない。


「――メイド。貴女って処女」


「はい」


 恥ずかしがる事もなくメイドは答える。

 私は、ベッドの下に置いているケースを取り出して、ベッドの上に中身をばら撒いた。

 ケースの中に入っていたのは、恋人だった朱雨悪が私とする際に用いた大人のオモチャの数々である。


「これで貴女のことを犯して処女を奪うわ。私のような性格悪い、しかも同性に処女を奪われたくはないでしょう。今、私を捨てて出ていくなら処女は守られるのよ」


「お嬢様が私を犯すことで、お嬢様が私に信を置いてくださるのなら、この身体、好きにしてくれて構いません」


「っ。ふ、ふん。強がりはやめなさいよ。メイド。スカートをたくしあげない」


「はい」


 メイドは両手でスカートを掴みたくしあげる。

 ガーターベルトの下には紅い蝶の刺繍がされた黒い下着を穿いていた。

 思わず唾を飲み込んでしまう。

 落ち着きなさい。私はそっちの趣味はない。ただ、メイドを犯して、嫌ってくれて、私を見限ってくれるのが目的っ。

 私は手を下着の中にいれる。


「へ、へぇ、ツルツルなんだ。私は本気よ。嫌なら、今すぐに出ていきなさい」


「私は、お嬢様のメイドです。犯される程度の覚悟がなくて、メイドが務まりません」


 苛つく苛つく苛つくっ!!!

 犯して、犯して、犯しまくって、絶対に「やめてください」って言わしてやる。

 そして止めるのと対価に、このメイドから追い出す!!




*****************


※この物語は、健全な物語と成っています。

そのため次回は事後まで飛びます。




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