閑話3 ラスボスに仕える系メイド



 最高難易度ダンジョン。

 上層――中層――下層――深層――深淵――奈落。

 その更なる深く潜った先。曼荼羅まんだら

 普遍的無意識或いは集合的無意識と呼ばれている世界がある。


 星のように無数の半透明な画面が浮かんでいて、まるで満天の星空を思わせる。

 半透明の画面に映っている映像は、地球上のダンジョンで起きている映像であった。

 それを一人の人物が無表情で眺めていた。

 黒いフードを被っていることから、顔半分しか分からないが、男とも女ともとれる顔立ちをしている。


 魔法使い。或いは史上最大のテロリスト。

 今から50年前に国際連合総会を一人でジャック。参加していた全ての首相ならびに大統領など殺害を行い、全世界に向けて地球上にダンジョンを発生させ、モンスターによるスタンピードを発生させると宣言した。

 当時の混乱ぶりは筆舌に尽くし難い。

 国のトップが軒並み殺されたことも影響して、どの国も対応が後手後手に回ってしまい、人類の大半が死ぬ自体となった。

 某国や某国はモンスターに対抗するため核弾頭を発射しようとしたが、全ての核弾頭は魔法使いにより奪われ消失していた。それを可能としたのは、国のトップを殺害することで指揮系統に混乱を招き、核弾頭の使用を遅らせる事ができたのが要因である。


 そんな魔法使いは、本名も、出身地も、性別も、全てが不明。

 魔法使いに関しては分かっている事は少なく、代表的なものとして有名なのは「人類進化論」という1000ページを超える論文である。

 要約すると『このままでは人類は駄目になる。そのため強制的に進化させるための要素として魔力を世界に充満させる事で、人を新しい形へと進化をさせよう。もし適応できなければ人類は滅ぶだろうが、そうならないように、私は人の可能性を信じるとしよう』とのこと。

 完全なエゴイストである。


「ご主人様。ご注文の品物が完成しました」


 空間が捻じり曲がったところから冥土オルタナティブ……十六夜冥夜が創り出した無数の分身体の一人が姿を現した。


「……オルタ。アレが完成したのか」


「はい。曼荼羅から動けないご主人様が、地上でも活動できるようにと私が丹精込めて造った魔導兵装、黒騎士ナイトメアです!!」


 派手な効果音と視覚効果、そしてオルタがクラッカーを鳴らす。

 ドライアイスの煙が消え去ると、2メートルほどの高さがある黒い鎧が冥夜の横に現れていた。

 胸元には真紅に輝く魔石が埋め込まれている。


「カタログスペックで奈落にいるモンスター程度の出力は出せます。勿論、半端な試作品をご主人様にお試しさせる訳にはまいりませんから、私自身で実験ずみです」


「……実験済み、ね。その機体から感じる気配、第一次・第二次沖縄奪還戦で日本の探索者たちを全滅させたものと似ているのだが?」


「やはり対人戦闘は実戦でないといけませんからね。亡くなっている方が判明している戦いでは、遠慮なく殺すことが出来ますので、遺憾なく性能を発揮することが出来ました。」


「……お前は過去にも行けるのか」


「行けませんよ? 私の投影変化術の応用です。過去に私を投影する事で、世界に存在したと錯覚させる――いわゆる幻術の一種です。ただの幻術と違って、きちんと物理干渉可能というところです」


 胸を張っていうオルタ。

 相変わらずのデタラメぶりに達観した気分にもなりながらも、魔法使いはナイトメアのことについて聞いた。


「動力はその胸元の魔石か?」


「はい。この魔石は、この曼荼羅の膨大なエネルギーを受信することを可能にすることで、地上でもご主人様の実力を存分に振るうことを可能としました! これで天藍祭での襲撃が可能です」


 天藍祭。

 高天原本校、天照大神分校、月読命分校、素戔嗚分校。

 この4校が8月の夏休みの間、上旬から中旬頃にかけての2週間、高天原本校で行う三校合同の体育祭と学園祭を指す。


「止めないのか? その祭りにはお前達に、お前達が仕える主や、先日の幼馴染も来るだろう。襲撃する以上、手加減は出来ないぞ」


「する必要はありません。ナイトメア程度に遅れを取って、仕える主や幼馴染を護れないような駄メイドなど、これからの激動時代について行く事など叶わないのですから、いっそ死んでしまったほうがいいでしょう」


「……カタログスペックは奈落級なんだろ」


「そうですが? 祭りなどのイベントにおいてテロというのはメイド学において一般教養。テロの可能性を低く見積もり鍛錬を怠るなどメイド失格。奈落級だろうと、曼荼羅級だろうと、神、邪神、魔王、あらゆる可能性を想定しておき、不可能を可能に、不可逆を可逆的に、メイドたるものその程度のことを成さずしてどうします」


「ああ、うん、そう、だな?」


 オルタがいうメイド学はきっと本人しか知り得ない事なので、魔法使いは深く追求しないことにした。

 ただ祭りにテロが起こり得るとして、それをどうこうするのはメイドの職務ではないとは思うが、自称メイドの冥夜が言ってるので、冥夜の中のメイドはそういうのだと、魔法使いは割り切っている。

 魔法使いはオルタが曼荼羅にいる自分の前に来たときの事を思い出す。


『初めまして、ご主人様。私の名前は十六夜冥夜の分身体の一つ、冥土オルタナティブと申します。

 見ての通りのどこにでもいる普通のメイドです。ラスボスである貴方様に仕えたくて、ここまでやって来ました。え。どうやって来たかって? 今の私の実力では曼荼羅級のモンスターには通じませんので、他の者の力を盛大に使い――早い話が数多の漫画やアニメのキャラの力を借りてやってきました。とはいえ、未熟な今の私ではせいぜい6割程度が限度でしたが。創作のキャラを現実に落とし込めて再現するとなると、色々と成約ができて厳しいですね。

 まあ、まだ純真無垢の穢れを知らない小学生なので、その辺りのチートは大目に見てください

 因みに、ご主人様が私をメイドにするかは自由ですが、選択肢としては「はい」「YES」「了承」「承諾」などのみとなっています』


 最終的に魔法使いは根負けしてオルタをメイドとすることにした。

 今までの魔法使いの人生で、数少ない敗北でもあった。

 ただし、オルタをメイドとして雇うことで、ダンジョン管理が格段とやりやすくなったりもしたので、特殊なメイド論を吐かれる相手をするのも、その代償だと考え割り切る魔法使いである。


「ところで……一つ聞いてもいいか?」


「なんでしょうか。このオルタ、ご主人様に隠し事など一つもありません。なんでも聞いて下さいませ」


「今はお前何人居るんだ……」


「? それは地球上の私でしょうか。それとも――数多数ある異世界に散りばめた私の合計数でしょうか」


「…………ああ。もういいや。数は聞くのは止めた。そこまでして、自分を増やしてお前は何を望むんだ」


「数多の私は一にして全。全にして一。ありとあらゆる存在に仕え、数多のメイドとしての経験を積み上げて、メイド王に至ることです。 ■■■■さま。例え貴方様の望み通りの生の終末を迎える時まで一緒にいますとも。その直前に、貴方を討とうとする者に私は斃されていることでしょう。それがラスボスたる貴方様に仕えるメイドの矜持です」


 ニコリと笑顔で答える冥夜。


「それは当面先のことでしょうから、今はいいじゃあないですか。そんな事よりも、この黒騎士ナイトメアの性能を教えますね。ナイトメアの最大火力は、貴方様がどさくさに紛れて世界各国より奪い取った核弾頭を、固定した空間で一斉に十発ほど強制爆発させ圧縮して固めた弾丸の投擲です。それを亜音速で飛ばして攻撃する対都市殲滅武装。シュミレーション上だと東京の幾つかの区は一纏めで崩壊する程度の威力を出せました。更に対人戦も想定して分身機能や、私達が見て観測することで得た数多の探索者たちのスキルも厳選して入れています。例えば――――」


 ノリノリで楽しそうにオルタは話を進める。

 魔法使いも真剣に聞きながら、天藍祭の襲撃をするのが少し楽しみになってきた。

 50年前に己が蒔いた種が、果たして今生きる者たちにきちんと芽吹いているのか……。

 説明をしている例外的な化物メイドは例外としても、それなりの力を持つ者たちが居てくれることを願うのであった。




……―――――……


■冥土オルタナティブ

 魔法使いに仕えるメイドで、十六夜冥夜が創り出したメイドアバターの一人。通称・オルタ

 ラスボスに仕えてみたいと欲求が強く持ち、曼荼羅に居るとされる魔法使いの元までやってきた。

 実力は曼荼羅で常に膨大な魔力を受けていることもあり、オリジナルである冥夜を上回る戦闘力を持つ。ただしスキルに関しては、全メイドアバターと共通となっているため、冥土オルタナティブのみのスキルはない。

 メイドしてラスボスの一つ前で立ち塞がり、最終的には討ち死にしたいという、ある意味、破滅願望を持つメイド。


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