閑話1 ダンジョン省


 色々とギリギリだったぁぁぁああああ。


 凛に渡した武器と防具、それぞれに破壊されたら私を召喚する術式を組み込んでいて、本当に良かった。

 高難易度ダンジョンに挑戦するって事で、心配でお守り代わりにつけたけど、まさか初日で使われることになるとは思わなかったよ。

 まあ、無事に凛を助けることが出来た本当に良かった。

 とりあえずメイドとして、検査入院した凛をご奉仕する日々を送ろうとしていたのに……。


 私が居るのは凛が検査入院している病院ではなく、国会議事堂にいた。

 正直、凛の奉仕をする以上に大事な用事なんてないので、無視しようとしたところ、役人が何人か来て、ダンジョン大臣、外務大臣、防衛大臣、官房長官の署名入りの召喚状を渡してきた。

 もし無視したら両親に渡してでも、来てもらうという一種の脅しの前に、私は屈した。


 国会議事堂の地下に新設された、もしもの緊急事態には司令室にもなる場所に連れ込まれた。

 ――女子中学生を薄暗い密室に連れ込むのって犯罪だと思うのよ。

 暗い空間には、召喚状に署名をしたダンジョン大臣、外務大臣、防衛大臣、官房長官の4人、そして思念体でレイラ・J・ドラゴンがいた。

 モニター越しでなく、機密性が確保できる思念体でこの場にいる時点で、どうせ碌な用事でないことがハッキリと分かった。


『冥王。まずは私に何か言うことはないかしら?』


「?」


『私の姿を勝手に使用してッ、私の業を全世界に公開したッ、ことに対して、言うことはないかって聞いてるの!!』


「真似られて困るのなら無人島にでも引っ込んでスローライフを送るのはどうでしょう。今でしたら、私というメイドがつきますよ」


『――オーケー。喧嘩、売ってきてるわよね。いいわ。買ってやろうじゃない。破壊される覚悟は出来てるかしら』


「そちらこそ、私の大切なメイドタイムを邪魔した事の大罪を受ける覚悟はありますか?」


 小学生の頃は、メイドとして凛の身体を洗ったりしていたのに、身体が成長してきて一緒に入ることがなくなってきたから、この検査入院の時が、凛に対してメイドとしてご奉仕する久しぶりのチャンスだったのにっ。


「ふたりとも落ち着きなさい。喧嘩をさせるために呼んだ訳ではない」


 私達の睨み合いを遮るように官房長官は言った。

 ……このまま喧嘩して有耶無耶にしようと思ったのに。そう上手くはいかないか。

 レイラ・J・ドラゴンは大きく深呼吸をして私を睨みながら言ってきた。


「冥王。キミには半年後に実施予定の極秘作戦、第三次沖縄奪還戦に参加をして貰いたい」


「イヤです。要件はそれだけですか? それだけですね。それじゃあ帰ります」


 あー、くだらない。

 私を呼ぶほどの要件だから、てっきりメイドが必要な案件かと思ったら……。

 そういうのは戦う事が好きな戦闘狂にでも振ってあげてください。

 日本でもアメリカにも、ヒャハァーな人間性の人は大勢いるのだから、わざわざメイドに振る案件じゃないんだよ。

 扉を開けようとするけど、赤ランプが点灯していて開けることが出来ない。

 ――話を聞くまで出す気はないらしい。ただし経験上、話を聞いたら、強制参加する事になりそうだけど。

 ため息を吐いて大臣達に向けていった


「そもそも今まで2度も失敗している作戦を、どうして今頃になってすることになったんですか? 前回から10年以上経ってますよね」


「……中国から、外務省を通じて、沖縄を魔物から奪還する手伝いをすると連絡が入った」


「手伝いって――作戦成功したら、実効支配する気満々じゃあないですか」


「国内のダンジョンの安定化優先のため、ダンジョンが出現したことで人がほとんどいなくなった沖縄の対応の優先順位は低くなり、前回の奪回作戦から10年が経過していた」


「魔法使いがダンジョンを生み出し、スタンピードを発生させたことで、今の沖縄のような国のが支援できない空白地帯が、世界各地に発生している状況だ」


「その空白地は先にダンジョンを制した国の手に渡るというのが、今の国際ルールと化した」


 私が生まれる前の出来事。

 魔法使いがダンジョンを生み出しモンスターのスタンピードを発生した事で、世界が混乱の渦になる中で、某国とか某国とかが強制的にルールを作り、自国の勢力拡大を目指した。

 表向きは他国救済及び人道支援目的とかいう屁理屈じみた言い訳だったらしい。

 当時は他国へ人員を向ける余裕はどこもない状態で、国内に発生したダンジョンの安定化並びにモンスター討伐が最優先事項であったようで、あまり気にかけてはなかったようだけど、もう50年が経過した。

 ふる程度の国は自国のダンジョンは安定していて、他国に人を進行させる余裕が出来たのが、今なんだろうね。


『我がアメリカとしては、中国に沖縄を渡すわけにはいかないわ。とはいえ、アメリカがメインで沖縄奪還したとすれば、アメリカに支配権があると騒がれ、後々で他国空白地を攻めて実効支配をする言い訳を作られるかもしれない。そもそもアメリカが沖縄を支配したりなんかしたら、日本の世論が荒れるでしょう』


「アメリカと協議した結果。日本がメイン、アメリカがサポートとして、沖縄奪還戦を中国より先に行うことになった」


「もし失敗すれば、中国は確実に沖縄を攻めて、実効支配下に置くことが想定される」


「それだけは絶対に阻止しなければならない」


『アメリカからは、アメリカランキング2位の私、後は10位代を1名、100位代を2名。海軍の空母を出陣させる予定よ』


「え。貴女が来るんですか?」


 どの国もランキング10位以上は国としての最大戦力の集まり。

 他国に送り出すなんてことは、基本的にありえないと言ってもいい。


『参戦は私が自ら立候補したの。――こういう機会じゃあないと、貴女と直接合う機会はないでしょう?』


「……」


 アメリカ政府っ。もっと頑張って参戦拒否してよ。

 自国の戦力価値を低く見積もり過ぎてない!?

 ああ、いやだいやだ。


『更にそのチンチクリンな格好をしている貴女は、作戦期間中、専属メイドとして側に仕えてもらうわ』


「! そんなッ」


『あはははは。せいぜい楽しみにしていなさい』


 嘲笑しながら、レイラ・J・ドラゴンは思念体を消え去った。

 ……なんで嘲笑していたかわからないけど、最後の最後でご褒美が来て、私は小躍りしたい気分だ

 沖縄奪還戦に強制参加させられるという、心底面倒くさい案件だったのに、アメリカランキング2位で、性格に難がある御主人様に仕えるなんて、メイド王になるための良い経験になる。

 ああ、凄くワクワクしてきた。


「それでは、これからは国内事情を話そうか」


 ……。

 どうやら私はまだまだ開放されないようだ。

 ああ、早く帰りたい。

 帰って早く凛をご奉仕したいよ



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