第7話 ツンデレ(9.8:0.2)


〝あれは……『月灯』か〟

〝今でこそ日本ランキング100位だけど、数年前は13位というトップクラスの探索者〟

〝リンちゃん師匠キターァァァァ〟

〝弟子のピンチに助けに来る師匠。これは燃える展開〟

〝Zでも一気に話題に上ってる〟


「■■■■■■■!!!」


 オーガは空間を振動させるほどの咆哮を上げると、まるで重機のように地面を揺らしながら、都師匠に向かって突進していく。

 都師匠は構えもせずにつまらなそうに立っているだけ。

 その態度にオーガは怒りを覚えたのか、手に持つ斧の柄を両手で握ると、都師匠に向けて振り下ろした。

 威力は凄まじかった。

 地震のように揺れ、衝撃波が発生したことで都師匠の後ろの壁周辺も粉砕され、その威力は天井まで伝わり、一部は崩落したほどだった。


「斬月流・朧月」


 都師匠は、まるで透過したかのように、オーガをすり抜けて私の方に向かって来る。

 振り返ることもせずに、オーガに向けてこう言った。


「てめぇには弟子が世話になったんだ。じっくりと遊んでやるから、今は寝てろや」


「■ォォ■■■ォォオオオォォォォ――」


 オーガから幾重にも斬られたかのように、血が身体から噴き出し、膝を付くと、前のめりに倒れ込んだ。

 あのオーガを一撃で……。流石です、都師匠。


〝TUEEEEEEEEEEEEE〟

〝言葉遣いはアレだけど、元2桁台の探索者だからなあ。〟

〝確か後進の育成に専念するとかで、最前線からは退いたんだっけ〟

〝そう。とは言っても、日本に優秀な探索者を遊ばせておく余力はないから、ダンジョン関連や国防には出ているって噂だな〟

〝ランキング上位更新をしなくなったから、徐々に下がっては来ているけど、それでも100位だから、決して弱くはない。というか、普通に強い〟


 都師匠と私の伯母に当たる人物だ。

 私がヨルツーと一緒に素戔嗚分校に進学する事に決めると、都師匠に剣術を習うように勧められた。

 素戔嗚分校は、ヨルツーが常にメイド服でいられるぐらい自由な校風で、その分、治安も決して良いとはいえない。ぶっちゃけていうと荒くれ者たちが多い。本当に多い。

 素戔嗚分校のOGである都師匠は、裏番をしていたとか。真実は怖くて聞けられていない。

 ……余談だけど、私は都師匠を伯母さんとは呼べない。

 弟子入りした時に「叔母さん」と呼んで、まあ、年齢的にも気にしていたのか、今のように「都師匠」と呼ぶように肉体的にも精神的にも刻み込まれたのが、最初の思い出だったりする。


「よう、バカ弟子」


「し、師匠――」


 ……どうしてだろう。凄く逃げたい。

 いや、理由は分かってはいる。都師匠がこんなに笑顔の時は、かなり怒っている時だ。

 都師匠の登場で、気が抜けて尻もち付いている私に近づいてきた都師匠は、足を私の下半身に近づけて足でグリグリとやり始めた。


「んっ。し、ししょう。都、師匠。なにをっ」


「あ? 電気アンマだよ」


「い、いや、行為の、名称を教えてほしいんじゃ、なくて、んっっぁ、です、ね」


〝おかしい。師匠と弟子の感動の対面はどこ……?〟

〝まさか包容もなく、初手で弟子に電気アンマをしかけてくるとは、このリハクの目をしても〟

〝REC〟

〝もっと力強く踏んで、喘ぎ声を聞かせてくれ〟

〝中学生に電気アンマして喘ぎ声を出させている放送はココですか?〟

〝さっきまでのオーガのあまり強さにシリアス強めになってご満足していたシリアス神が泣いてるぞ〟

〝シリアス神「オーガぁぁぁああ。さっさと覚醒めて、このクソアマをワカラせなさいよ」〟

〝オーガ「神のオーダーが無茶振りすぎてツライ」〟


「なあバカ弟子。オレはお前に『彼岸華』をどうしろって言った」


「っんっ、ぁ、つか、使わないように、っっ、指導されました!」


「だよなぁ。そう言ったよな。何度も何度も何度も言ったよな?」


「っっ、は、はい」


「なら、どうして使った? 『彼岸華』を使ったら勝てるとでも、幻想を抱いたか?」


「……」


「答えろよ、バカ弟子!!」


 都師匠は更に足に力を込めてグリグリとやり始めた。

 ドローンのカメラが回っていて、喘ぎ声がカメラで生中継されている事の恥ずかしもあり、口元を両手で抑え、私は涙声になりながら、やっと答えた。


「そう、です。思い、ました。『彼岸華』を使えば、っん、ぁぁ、もしかしたら、勝てるかも――って」


「……」


 都師匠は電気アンマを止めてくれると、私に近づき、頭に手刀を叩き込んできた。

 痛い。――すごく痛い、オーガに殴り飛ばされたときよりも、痛い。


「……バカ弟子。蛮勇と無謀を履き違えるな。勝てないと一目で理解したら、無様でもいい、何が何でも逃げて、逃げて、生き延びる方法だけを第一に考えろ。オレに親族と弟子の一遍に両方を喪わせるつもりかよ」


「――――、ごめんな、さい。母さんにも、謝ります」


「そうしろ。バカ弟子が」


〝『月灯』はダンジョンと国防と一番激しい時代を生きた実力者の一人〟

〝亡くした戦友も知り合いも多いだろうな〟

〝後進を育てるために最前線から引いているのも、出来るだけ多くの人にこの激動の時代を生き残ってほしいからだからな〟

〝本当、口と行動は悪いけど、やっている事はいい人なんだよなぁ。口と行動は悪いけど〟

〝ツンデレかな?〟

〝ツンデレの割合が9.8:0.2ぐらいだけどな〟

〝せめてカフェオレぐらいのデレは欲しいです〟

〝それぐらいのデレがあったら、きっとモテてるだろうなぁ〟

〝wwwwwww〟

〝【月灯】:おい、こら、ふざけた事をしてるんじゃねえぞ!!〟


 ……え。

 コメント欄にありえない人が現れた。都師匠だ。

 だって、ありえないよね。都師匠は、私の前にいて、助けてくれたんだから。


〝え〟

〝「月灯」がなんでコメント出来るんだよ。リンちゃん所にいるハズ、だよな〟

〝スマホつついている様子もないから、成りすましか?〟

〝俺氏。◯◯市のダンジョン署にて殺気を飛ばしまくる「月灯」と遭遇中〟

〝リンちゃんの事でやって来ている時に配信で自分が現れてから、殺気のレベルが上昇していってるんだが?〟

〝ハァァァ?〟

〝どうなってるんだよ。〟

〝【月灯】:オレの姿を真似て好き勝手しまりやがって――てめぇとは一度サシで話し合う必要がありそうだなぁ、ええ、『冥王』!!!〟



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