第6話 vs.カラミティオーガ


『――ますか。――――ンさん。――しっかり――――――』


 耳元から九頭さんの声が聞こえる。

 左手に付けているスマホからは警告音が鳴り響いている。

 あれ、私、どうしたん、だっ、け。

 とりあえず立ち上がろうと私は、目眩がして膝を折った。


 ああ、そうだ。少しずつだけど思い出してきた。

 あのオーガの頸を刎ねようとした所、オーガの裏拳を胸部にくらって壁まで吹き飛ばされたんだった。

 オーガの一撃で胸当ては木っ端微塵に壊れていた。……壁まで一瞬で吹き飛ばすほどの威力の拳を受けて、まだ死んでないのは、胸当ての防御力のお陰ね。

 帰ることが出来たら、ヨルツーにお礼をしないと。


 とりあえず、武器、刀は、――。

 辺りを見回してみたけど、刀はどこにも無かった。

 ふと顔を見上げてオーガの方を見ると、嘲笑うような表情をしているオーガの手に刀が握られていた。


「や、やめ、それは、大事な、」


 勿論。オーガはそんな私の願いを聞いてくれるわけもない。

 私が声を発したことで、握っている刀が大切なものだと知ったオーガは、握りしめて刀を砕いた。

 あ、あ、ヨルツーが、作ってくれて、渡してくれた刀が――。


〝やべぇ、武器破壊された〟

〝救援はまだか〟

〝Zでツイートしてるけど――中々厳しい〟

〝最低でも1000位以上のパーティーで固めてないと厳しいだろ〟


〝Villain:相手はオーガなんだ。裸になって下品に媚びろよ。そうすれば殺されずに、犯されるだけですむかもしれないぜ〟

〝げ。Villainが来たぞ〟

〝女性配信者のピンチに現れて余計な事をいう腐れ外道〟

〝お前なんかお呼びじゃあねぇよ〟

〝そもそもリンちゃんは中学生だぞ。未成年者に対してそういう言動は犯罪だろ〟

〝Villain:おいおい。オレは親切にも助かる一案を提案してる善意の第三者だぜ〟

〝どこが善意だ。悪意しかねぇだろ〟

〝Villain:はっ。なら、お前たちにこの状況であの子を生かす方法を他に提案できるのかよ〟

〝……逃げ回って、救援を、待つとか、だな〟

〝Villain:ヒャーハッハッハ。バッカじゃねーの。業の反動とオーガからのダメージで意識朦朧として相手に対して逃げまわれだぁ。出来るわけねぇだろが!!〟

〝……それは〟

〝Villain:あの場にいるのは、そこの小娘一人だけだ。このままだと、あの変異種オーガに成すすべもなく残虐に殺されるだけだろ?〟

〝Villain:なあ、リンちゃんよぉ。生きたいよなぉ。そんな所でオーガに殺されたくないよなぁ。なら、オークに媚びて、媚びて、裸になって、人間のプライドを全てかなぐり捨てて、性奴隷と自分に言い聞かせて、犯られろよぉ。そうすれば一縷の望みで、救援までは生き長らえられるかもしれないぜ〟


 オーガは相変わらず嘲笑うかのようなイヤらしい表情をしている。

 まるでVillainの提案に対して、どう出るか見ているような、イヤな表情――。

 Villainの提案を受け入れたら……アイドルとしての私は死ぬ。オーガに媚びて犯され意地汚く生きた私がアイドルとして続けられるわけがない。

 別に――アイドルに未練はない。充実したサポート体制を約束しれたから、やっているだけ。

 それよりも、もしも、ヨルツーに知られて、軽蔑されたら?

 大切な、幼馴染の、ヨルツーが軽蔑してきて、もう二度と話す機会がなくなったら?


「ガッ、ハァッ、ゲッホッホ」


 過呼吸に陥り、咳から血を吐いた。

 そんなの、耐えられない――ッ。

 それに媚びて犯されるような事をしたら、胸を張って憧れの冥王さまに逢うことなんて出来ない!!

 歯を食いしばり、立ち上がって、私は言う。


「ご期待に答えられない、ですね。そんな、ことを、するぐらいならっ、戦って、戦って意地汚く生き残ってやりますよ!!」


〝Villain:……チ〟


 Villainは舌打ちのコメントを残すと、消えていった。

 オーガに向けて力強く睨む。

 私は、お前には屈しない。――そんな意志を込めて。


 オーガは嘲笑じみた表情を消し、つまらなそうな表情になった。

 一歩一歩、私の方に向かってくる。

 ――まるで死神が、こっちに来ている感じだ。

 生き残る方法があるとすれば、脚部のみに「彼岸華」を発動させて救助が来るまで逃げ回るしかない。ただ、どれぐらい逃げ回れるかよね。

 最悪――両足は壊死して切断する事も視野にはいれている。

 何一つ喪うことなく、あのオーガから逃げられるとは思っていない。


「斬華流・彼岸華」


 無理やり魔力回路を神経と血管に接続した影響で激痛が走る。

 私の方に進んできていたオーガが歩みを止めた。

 ……?

 「彼岸華」に警戒するわけもなく、あのオーガは私が斃す術がなく、逃げ回るしかない事を理解していて、一方的な捕食者だ。

 それがどういうわけか歩みを止めて、手に装備している斧を構え、警戒を始めた。


「斬月流・三日月」


 オーガの背後から、魔力で生み出された三日月状の刃が迫る。

 振り返ったオーガは、斧を三日月型の魔力刃に当てて相殺を計った。

 激しい音と魔力を発生させながら、オーガは雄叫びを上げ、魔力刃を破壊した。


「おうおう。猪のクセにオレの三日月を破壊するとはやるじゃねーの?」


「し、師匠!?」


 私は驚いて声を上げた。

 救助に来てきれたのは、私の剣の師匠である、月詠・都(ツクヨミ・ミヤコ)さんだった。



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