第4話 青木ヶ原樹海ダンジョン
青木ヶ原樹海ダンジョン。
日本の高難易度ダンジョンに分類されている中でも常にトップ三位。
因みに最高難易度ランキングというのもあって、霊峰富士はそちらに含まれている。
最高難易度ダンジョンは、通常ダンジョンや高難易度ダンジョンと比べても別世界と言われていて、挑戦できるのはランキング100位以上とされていた。
まだ1000位台の私には、関係ない話だけど。
「それでは、リンさん。気をつけて下さい。命を大事に。アイドルなんですから、あくまでエンタメを重視して下さいね」
「分かってます」
マネージャーの
九頭さんの言っている事は間違っていない。
私は事務所に所属していて、アイドルをやりつつダンジョン配信をしているDTuber。
ダンジョンはエンタメでする必要があるのは分かるけど……私は真剣に勝負をしたい。
「リンさんに何かあると私は他の人のマネージャーをしなければならなくなります。DQN、メンヘラ、社会経験のないクソガキ共を相手にしなければならないんですよっ。リンさんみたいな手のかからないアイドルは大変貴重です。私の今後のスローライフのためにも、絶対の絶對に無事に帰ってきて下さい」
「はいはい」
言動はちょっとクズだけで、割と有能なのよね。
ダンジョン探索に必要なものは色々と用意してくれるし、事務所の上の方から色々言われているだろうけど、それを私に強制させる事はあまりない。
アイドルもしていますよ~という体裁をするために写真集を出すことにはなったけど……。
左腕にスマートフォンを装着して、片目用VRゴーグルを取り付けた。
ダンジョン初期は両目ゴーグルが主流だったようだけど、ハッキングをしてくるモンスターが確認されたことで、有視界でも確認できるよう、片目用のVRゴーグルが開発された経緯がある。
スマートフォンにペアリングする。
チャット機能と連動している事で、空中に文字列と表示された。
空中に浮かぶドローンに向けて、私は笑顔で言った。
「皆さん、こんにちはー。今日は先日言った通り、高難易度ダンジョンの一つ「青木ヶ原樹海ダンジョン」に挑んでいきます!!」
〝キター〟
〝リンちゃん。そこは普通のダンジョンとレベル違うから気をつけて!〟
〝なんか武器と防具が新調されてね?〟
「あ、はい。刀と胸当ては新調しました。今までの物で挑むつもりでしたけど、親友が今日のためにとプレゼントしてくれたんです」
〝リンちゃん、なんだか凄く嬉しそう〟
〝嬉しい感じが溢れ出てる。俺じゃなければ見逃してるね〟
〝男か。男からのプレゼントなのか!〟
「違います。親友は同性の方です」
〝百合かな〟
〝百合でも私は一向に構わんッッ〟
「アッハ、ハハ、ハハハ……」
私は苦笑して、肯定も否定もしなかった。
こういった百合の匂わせ程度は、やった方がいいと九頭さんからは言われている。
なんだっけ百合営業っていうんだっけ。いや、違うか。
勿論、異性との匂わせは炎上になりかねないので、絶対にしないように念押しはされていた。
そんな雑談をしながら青木ヶ原樹海の中へ入った。
歩いて10分ほど行った所に、青木ヶ原樹海ダンジョンの入口はある。
ダンジョンは空間が歪み発生している。空間が歪み、元々あったモノに穴が空き、そこがダンジョンの入口となる。
青木ヶ原樹海ダンジョンの入口は、勾配のある丘の斜面が入口となっていて、その周りはプレハブで囲われている。
このプレハブは術師が結界を仕込んでいて、簡単には壊れない形になっているらしい。
プレハブの入口にあるセキュリティーに、ダンジョン省が発行しているカードを翳すと、入口のロックが解除された。
扉を開けて中に入ると、幾つかの照明がダンジョンの入口を照らしていて、監視カメラが数台、取り付けられている。
ここは高難易度ダンジョンに分類されているので、監視カメラの数は多い。
新宿御苑ダンジョンは1台だけだった。
大きく深呼吸をした。ダンジョンに入る瞬間が一番緊張する。
特に今日は高難易度に分類されているダンジョン。
今まで以上にプレッシャーがある。
ダンジョンの中へ踏み込んだ。
〝高難易度ダンジョンと言っても上層は、他のダンジョンと一緒なんだな〟
〝まあ、上層はお試し、そのダンジョンのチュートリアル的な意味合いもあるから〟
〝チュートリアルと舐めてかかるとヤバイぞ〟
〝ゲームで言うとチュートリアを難易度ハードでプレイするようなものらしいからなぁ〟
〝※因みにダンジョンは不定期に自動生成されているので、同じダンジョンでも地図とは役に立たない〟
そうなのよね。
ダンジョンは不定期に創り変えられて自動生成される。
そのため地図のようなものはなく、フロアを虱潰しに探して次の階層への入口を探さなければなけない。正直、面倒なのよね、この作業。
探索していると、ゴブリンを見つけた。
まだ向うは私に気がついていない。
一気に駆け出し、刀を抜刀。ゴブリンを斬りつける、寸前、私は急ブレーキをかけて後ろへと跳んだ。
〝え。ゴブリンの方は、リンちゃんに気がついてなかっただろ〟
〝なんで後ろへ跳んだんだ?〟
〝いや、さっきリンちゃんが居た位置を見てみろ。矢が幾つか刺さっているぞ〟
〝あのまま突っ込んでいたら、ゴブリンは斃せるだろうけど、矢を受けていた可能性が高い〟
〝これが普通のダンジョンと高難易度ダンジョンの違い。ゴブリンでも油断すると死ぬ〟
斬ろうとしたゴブリンは、私に気がついたようだ。
手に持っている小剣を構えて向かってきた。
速い。新宿御苑ダンジョンのゴブリンと比べて、明らかに速かった。
刀で小剣を受けるものの、パワーの方も同様だった。
――ああ、これが高難易度ダンジョンッ
「斬華流・鳳仙華」
ゴブリンに向けて素早く刀を振るものの、小剣と合わされて防がれた。
……新宿御苑ダンジョンのゴブリンなら、この業で斃す事が出来たんだけど。
「斬華流・桜華」
魔力を桜の花弁のように変換して相手の視界を奪う。魔力で制作した花弁は、多少の殺傷能力もある。
桜の花弁が舞い、ゴブリンを包み込み、視界を封じたところでゴブリンの首を斬り落とす。
ゴブリンは小さなうめき声を上げて絶命した。
舞う桜の花弁を奥へ向ける。矢を放ってきたゴブリンアーチャーがいるハズ。
基本は近距離戦を得意としている私は、遠距離からの相手は苦手なため、出来るだけ直ぐに斃してたいけど――、花弁が敵に当たった反応はなかった。
どうやらゴブリンを斃した所で逃げたようだ。
……いや、ここは高難易度ダンジョン。油断は禁物
逃げたとみせかけて罠を張っている可能性もあるし、援軍を呼びにいった可能性もある。
ここは油断せずに往こう。まだダンジョンに潜り始めたばかりなのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます