第9話 最後に
八月に入ってからは優輝の部活も忙しく、私もバイトや親戚の家に遊びに行ったり、予定が沢山あったので花火大会の日から会っていなかった。
八月の二十四日、元々誘っていた地元の花火大会があったけれど、優輝に部活の大事な試合があるので行けるか分からないと言われていた。
私は、心から頑張ってほしいと思っていたし行けなくても仕方ないと思っていた。
当日の夕方、優輝から
「今日、行けなさそう」
とメッセージが来た。その上天気は気分を表したような大雨で、花火大会まで中止になってしまった。その事を優輝に伝えた。そして思っていた以上に期待してしまっていた自分に気づいた。悲しさを忘れるために寝ることにした。
もう何も考えたくなかった。
気がつくと夜の八時を過ぎていて優輝から返信がなかったので、まだ大会から帰っていないのか気になり、トーク画面を開いた。
すると既読という文字が目に入った。そして、悲しい顔のスタンプで終わらされていた。
その瞬間、悲しみよりも苛立ちを覚えた。優輝は、少しも楽しみにしていなかったののだろうか。今までにも既読無視というものはあったけれど、今回ばかりは抑えきれなかった。それくらい深く傷ついた。
今まで踏み込んだ質問はしなかった。というか、出来なかった。
「急だけどさ、優輝は少しでも私と会いたいとか思ってくれてるの?」
と送った。後悔はなかった。今までの最大の疑問だったからだ。いつも私から誘っていたし、会いたいと思う以前に、私のことを本当に好きなのかさえ分からなかった。
返信が来たのは次の日だった。私は友達と大学のオープンキャンパスに行っているときだった。帰りのバスに乗っている時に優輝からメッセージが来ている事に気づいた。優輝からの長文だった。
「別れたい」
最後の文が見えた瞬間、ついに終わってしまったと思った。
バスの窓から見える景色は馴染みのない景色で、全ての木々に、顔がついていてみんなが私を慰めてくれている気がした。
信じたくなかった。返信の内容は、
「正直最近会うのがめんどくさいと思うようになって、そんな自分が嫌だし、何より咲良に申し訳ない。こんな理由で本当に最低だけど別れたい。」
というものだった。その他にも書かれていた事があったが、本当に謎めいた文だと思った。聞きたいことが山程あった。
「嫌いになったわけじゃないなら、最後に会って話したい」
と言った。会ってもどうせ泣きじゃくって恥をかいて伝えたいことなんて言い切れないのも分かっていた。それでも最後に優輝の顔を見て直接別れを伝えたいと思った。
「嫌いになった訳では無いけど、もう会うのはやめとく。」
と、会うことさえ拒まれた。
その日は、友達がずっとそばに居てくれた。カラオケで私はひたすら友達の歌う曲を聞いて泣いた。駅からの帰り道も泣いた。家に帰ってからも走ってくると言って公園のベンチで泣いた。お風呂でも泣いて、寝る前にも泣いた。
本当に辛かった。ふと、なんでこんなにも辛いのかを考えてみた。
答えは明白だった。優輝に言いたかったことも聞きたかったことも何も伝えられていなかったからだ。
とにかく、優輝にぶつけたかった気持ちを全部、一つ残らずノートに書いた。全然関係ない小学校の時の思い出とか、優輝にされて嬉しかったことも書いた。
ノート、二ページにぎっしりと書かれた文を何回も何回も読んだ。
何回読んでも私の気持ちとか情そのものだと思った。
その時、もうこのまま優輝に送ってしまおうと思った。優輝だから送ろうか迷うことは全く無かった。最後だし、優輝になら自分の気持ちを全部さらけ出しても受け止めてくれると思った。
夜中、ノートを写真に撮って優輝に送った。
返信なんていらないし、むしろ既読すらつかなくてもいいと思った。
とにかく、気持ち全部を優輝に送ったと思うと少しスッキリした。
次の日の朝、返信が来ていた。
優輝はいつも良い方に期待を裏切る。
「急に別れてほしいとか言ってほんとごめん。俺の中では結構前から色々考えてたんだ、だからこんな俺じゃなくてもっといい人がいるよ。俺のこと好きになってくれてありがとう。」
前日の夜にはもう枯れたと思っていた涙がまた溢れてきた。ずるいと思った。既読すらつかなくてもいいとまで思っていたのに。返信はするくせに、私が聞いたことは何も答えてくれなかった。
その日は二時までバイトだったので家に帰ってきてから何回も優輝に貰った言葉を読んだ。公園のベンチでひたすら読んで泣いた。
家に帰ってから、また気持ちをノートに書いた。優輝にはもう届かないと分かっていたけれど。
"優輝へ"
”今までの約五年、優輝にはたくさん傷つけられたけど、優輝は嘘だけは付いた事なかったよね。
私は優輝から貰った言葉をこう解釈したよ。
今まで見てきた優輝が本当なら、多分合ってる。
私はさ、優輝に「会いたいと思ってくれてるの?」って聞いたんだよ。
そう聞かれて優輝は正直に、素直に会いたいと思えてない事を、伝えないとって思ったんだと思う。それで、正直に
「そう思ってる自分が嫌だし、何より咲良に申し訳ない」
って言ってくれたんでしょ。
それでその気持ちを私に伝えて、このまま付き合うのは気が進まなかったんだと思う。それ以外にも言っていないだけで理由はあったかもしれないけれど。
だから、「こんな理由で最低だけど別れたい。」って言ったんだよね。
改めてじっくり見るとね、優輝の優しさが滲んでるよ。
優輝はさ、私と会うのがめんどくさくなっただけなの?嫌いになった訳じゃ無いけどなんなの?
どうせ振るならさ、大嫌いになったくらい言ってほしかった。
「こんな俺よりもっといい人がいるよ」って。そんな優輝の事を好きになったのに。
よくね、友達との恋バナで、友達が彼氏とのメッセージのやり取りを見せてきたことがあったんだけど、全然ちがったの。私と優輝よりも一緒にいる期間は全然短かったのに。
なんだか、負けた気分だったよ。
それでもね、優輝は直接会うと私の事好きそうな顔するんだよ。勘違いだったか、。
優輝は初めてハグした時どう思った?
何も感じなかった? 私と同じように嬉しくて、幸せでたまらない気持ちにならなかった?
私の誕生日に大好きだよって言ってくれたのは本心?
私ね、この別れには何か意味があると思うんだ。小学生の時、転校して来て優輝に出会った事も、中学の三年間寂しい思いをした事も。
優輝を大好きになった事にも。
どうか、優輝にとっても意味のあるものになっていてくれていたら、すごく嬉しいよ。
それでも、別れを受け入れられても、優輝とずっと一緒にいられる運命が良かったって思うよ。
でもね、これから先にもっと優輝としたかった事は沢山あったけど、後悔は一つもないんだ。この恋が完璧に思い出になってしまう日が来ると思う。
すぐには到底無理だけど。
でも、思い出す時には笑顔になれる自信があるよ。
そう言い切れるくらい素敵な恋だった。
優輝、咲良に本当に人を好きになるっていう事を教えてくれてありがとう。
学校も同じだしすれ違うこともあるけど、優輝のいない生活も楽しめるように頑張ってみるよ。
ありがとう。"
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