第7話 新しい季節に

 二月も去るようにして過ぎて、高校一年生も残るところ半月を切った。

一年生の最後の月という事が信じられなくて一年があっという間だと思う反面、色んな事があった事を思うと実際は長かったんだなとも思った。


そんなふうに一年を思い返しながら生活をしていたら、三月も半分が経っていてホワイトデーが来た。


 今回は私の家の近くの公園で会うことになった。優輝は部活終わりだったので、ワイシャツにセーターを着ていた。合流してすぐバレンタインのお返しを貰った。お礼を言うとすぐに


「バレンタインのやつ、あれなに!?めっちゃ美味かった。」


と言われ、一瞬なんのことかわからなかったが、私があげたチョコをすごく褒めてくれていることに気がついて、すごく嬉しかった。


お菓子くらいなら作れるけれど、料理を全くと言っていいほどしない私も、将来誰かのためにご飯を作るようになるとすれば、優輝みたいな大好きな人に喜んでもらいたい、と思うからなのかなと思った。


 そうして話していると、学校帰りの小学生が沢山公園にやって来た。まるで四年前の自分達を見ているようだった。少し優輝の顔を見てみると、優輝も同じことを考えているような顔をしていた。




よく、私と優輝の関係を知っている友達に


「優輝のどこを好きになったの?」


と聞かれる。私は聞かれる度に、とっさに


「いつも何考えてるかわからないところとか」


と、照れ隠しで答える。でも、それも本当だ。けれど肝心なのはその後で、友達にも話そうとするけれど、毎回話が終わってしまう。優輝の魅力は自分だけが知ってればいいとも思うので、無理には言わない。


優輝は本当にいつも何を考えているのか分からない時がある。そのくせ、自分がしたい事とかも相当じゃないと言わない。正直、出会って八年ほど経つけれど、優輝のことは未知なことの方が多いと思う。


それでも、偶にすごく優しくて素敵な表情を見せる時があって、何も起きてない時は本当に何も考えてない顔をしているけれど、その分嬉しいことがあった時とか、面白い事があったらすごく表情にでる。


その事があり、優輝は何を考えてるかわからないようですごく分かりやすいのだ。

だから、長い間接するようになって、本当に優しい人なんだなあ、と感じ取った。

正直優輝の好きなところについては、細かいところまでいくらでも語れるし語りたいとも思う。けれど、理屈では話せないようなフィーリングで好きだと感じたところを、簡単に一言に表すとするなら、"優しいところ" だと思う。


とにかく、学校帰りの小学生達を見て、優輝も私と同じことを考えているような気がした。

小学生たちが遊具を使いたそうにしていたので、公園から出て歩くことにした。そしてお互いの家に向かう分かれ道にある止まれの標識の前で、暖かい夕日に照らされながら長い間、話した後バイバイのハグをした。優輝のセーターが太陽に照らされて、暖かくて心地よくて眠れそうだった。


春休みに入ってから、私の誕生日があった。その日は夕方まで予定があったので午後の六時くらいから会うことになった。いつもの公園に行くとベンチに優輝が座っていた。今日は部活もなかったのでずっと家に居たらしく、いつもはセンター分けだった髪の毛を下ろしていた。

長めの前髪が目に少しかかっていて、いつもとはかなり雰囲気が違ったけれど、少しだけ小学校の時の優輝みたいで懐かしくなった。


一度、私が七三分けが好き、と優輝に言った事があった。その次に一緒に映画を見に行った時に優輝が七三分けをしてくれていた。私は気づいていたけれど言うタイミングを逃してしまっていつか伝えたいなと思っていた。

その事を思い出して、また言い逃すのは嫌だったので、その日はしっかりと伝えた。


その後、優輝は


「実用性を考えてこれにした。」


と言って淡いピンク色のタンブラーをくれた。正直、プレゼントをくれるとは全然思っていなかった。ただ、誕生日当日に会えるというだけでもうすでに幸せだった。

そんな幸せな気持ちで満たされてると雨が降ってきた。小さな屋根の下のベンチに行った。そしてお互いに手を広げてバイバイのハグをした。


帰り道に、晴れ日が大好きな私が、雨の日もいいなと思えた。




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