第3話 夏休み

 五月もあっという間に過ぎて、気づくと7月になっており期末考査が近ずいていた。期末考査が終わるとすぐに夏休みだったので、みんな夏を楽しむために勉強を頑張っていた。もちろん私も夏休みに思いっ切り遊ぶために勉強した。特に私の好きな季節でもあったので、とても楽しみにしていた。

 そして一番の楽しみは、去年優輝と初めて行った夏祭りにまた二人で行くことだった。また一年ぶりに、あの景色を見ながら同じ場所を歩きたかった。

 

 期末考査も最終日になったので、テスト期間中はなかった部活が再開した。

始めの三十分はミーティングと言われており、夏休みに行われる校内合宿の打ち合わせをするとなっていて、とても楽しみにしていた。


実際に日程表が配られて日付を確認すると、とても嫌な予感がした。

そこには、七月二六日、二七日、二八日の二泊三日と書かれていて、祭りの日にちと全く一緒だった。正直かなりショックを受けた。けれど他にも祭りはあると思い、そこまで深く考えるのはやめた。

代わりに少し場所が離れたところで行われる花火を見に行くことにした。それはそれで、とても楽しそうだったので大目に見た。

 

 夏休みが始まり、ついに校内合宿が始まった。

校内合宿は典型的にバドミントンをする予定が組み込まれていて、ご飯と寝る時間とお風呂、夕方の昼寝の時間以外はずっとバドミントンか走るかだった。

体力的にもメンタル的にもきつかったが、朝起きて優輝が来るのを見た時には疲れが驚くほどに吹っ飛んだ。

 

中学の三年間、十回ほどしか会うことができず、家は離れてはいなかったが、学校の方向も家の方向も違ったので会えない分、常に優輝の事を考えて物事を頑張る事が習慣になってしまっていた。今考えると、すべての物事の原点が優輝だったと思う。

 

 例えば中学三年生の夏頃から晴れの日は夜に、毎日走るようになったのも優輝が理由だ。


一度、勉強に飽きて気分転換をしに夜に散歩した時、優輝の家の近くにある郵便局の前を歩いていたら、後ろからものすごい勢いで私のことを追い抜かした自転車がいた。通り過ぎた自転車に乗っていた人が優輝だとすぐに分かった。


その日から、もしかしたら優輝に会えるかもと思い、どうせなら走ってみようと思った。それから一年経った今でも、未だに走り続けている自分がすごいと思う。

けれど最初の理由は、優輝と会えるかもというものだけだったけれど、今は走ることを好きになった。

走っている間は、色々な事を考えているので走り終わると頭の中がすっきりするのだ。今では何か悩みができると走ればだいたい解決する。


その事もあって、合宿での外周走も暑かったけれどそこまで体には堪えなかった。

 

 そんな校内合宿も終わって、八月になり、待ちに待った花火大会の日になった。

お互いに午前中は部活だったので午後の五時くらいに駅に集合した。日が伸びて、まだかなり明るかった。

最寄り駅は一駅違ったので、駅に着いてから改札で待ち合わせをした。


 そして無事に合流してから、花火大会の会場の駅までの電車に乗った。

電車内はかなり混んでいて座れなかった。手すりも空いてなく、電車が揺れるたびにおどおどしていた私を見て優輝はニヤッとしてから、からかうように


「体感ないなー」


と言った。私はぐらついてるところを見られた恥ずかしさと、このー!という気持ちでいっぱいになった。

けれど恥ずかしさよりも、その優輝のニヤけズラにドキッとしてしまった自分が恥ずかしかった。


 目的地の駅につくと、本当に大勢の人が密集していた。駅を出るまでにもかなり時間がかかったが、その時間もすごく楽しかった。

 

やっとの事で駅から出ると空はきれいに晴れていたけれど、かなり風が吹いていて花火が延期になるという情報が耳に入ってきた。


二人で花火を見るのは初めてだったので、かなり落ち込んだけれど、何か食べたいという話になったので屋台に行くことにした。

けれど屋台はかなり混んでおり買えそうになかったので、携帯で道を調べて一番近くにあったコンビニで買うことにした。

 

コンビニに辿り着くまでの道はすごく長く感じた。色々な道を通った。

名前もわからない小学校の裏の道を通ったり、歩道橋の下にある線路沿いの脇道を通ったりした。一人なら薄暗くて怖いと感じるような道でも優輝と歩くと、なんだか冒険している気分ですごくワクワクした。

 

コンビニに着いてお互いに食べたいものを買うと近くにあったマンションの花壇に座れるスペースがあったのでそこで食べることにした。

 

 そこで、優輝に誕生日プレゼントを渡した。本当の誕生日は七月末だったけれど、お互い部活が忙しかったので渡せずにいた。何をあげるかすごく悩んだ。

去年はスポーツタオルをプレゼントしたので、今年も何か使えるものがいいと思った。

 

 少し前に、二人で映画を見に行った時に私がつけていた、小さい輪っかのイヤリングを片耳に貸したことがあった。その時にとても似合っていたし、アクセサリーを付けなさそうなイメージがあったので、そのギャップに少し萌えたのを思い出した。

その事があり、今年は片耳用のイヤリングをプレゼントした。思った通り、クールな容姿にすごく似合っていた。


 そして、しばらく夢中になって話をしていると、夜の九時半を過ぎてしまっていた。そして、気づくとついさっきまで花火が延期になって落ち込んでいたのに、あっという間に幸せな気持ちになっていた。

そして改めて、この人とずっと一緒にいたいと、そう思った。




 

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