第2話 次なる行事

 そんな楽しい毎日は、中学の頃とは比べものにならないほど早く過ぎていった。

クラスにも新しく友達ができて、階は違ったけれど二日に一回くらいのペースでサッカー部でサッカーをしている優輝を学校で見ることができた。

もちろん話もしたかったけれど、中学の時からずっと優輝の部活姿をみるのが夢だった私にとって、同じ学校で優輝の事を見れるだけですごく嬉しかった。

 

 そして、私も女子バドミントン部に入部した。中学ではバレー部に所属していて部長を努めていたこともあり、スポーツをすることも好きだった。

何より、部活の休憩時間に、体育館の外で優輝のサッカー姿を見れるなんて、こんなにおいしい環境はないと思った。


そして、それ以外にもバドミントンは楽しかったし、何よりスポーツをしているとすごく自分らしく生きれている感じがした。部活内で他のクラスの子とも仲良くなったりして、まさに夢のJKライフだと思った。

 

 五月も後半になり、初めての行事である遠足の日が近ずいていた。班決めも順調に進み、学校では手で数えられるくらいしか優輝と話すことはなかったけれど、LINEでクラスの事や部活のことなど、同じ学校という事を実感できる会話が増えて更に嬉しかった。

 

 そして、ある木曜日の日にいつものように遠足のオリエンテーションがあった。今回は三階の体育館ではなく一階の柔道場に集合となっていて、いつもと同じように優輝の事を探していると、同じクラスにいるサッカー部のマネージャーである横山春奈(よこやま はるな)ちゃんが私の心の声を繰り返すように、


「どこだろうー?」


と言っているのが聞こえて、少し気になったのでしばらく春奈ちゃんとサッカー部の人の会話を聞いてみることにした。しばらく聞いていると


「来た!一ノ瀬〜」


という言葉が聞こえてきて、考えすぎだという考えは一瞬にして消えた。まさかと思っていた展開に驚いて、遠足のオリエンテーションどころではなかった。

けれど、話を聞いていると一ノ瀬のことは「推し」だとかと話ているのが聞こえてきたので、少しホッとした。


 その日は家に帰ってすぐ、春奈ちゃんの事を優輝に伝えた。優輝は元から、かなり鈍感なところがあったけれど、前に春奈ちゃんに推しだと言われたことがあったらしく、特に何かされているわけでもなかったので大丈夫そうだと思った。


そして、その時にあることに気づいた。中学では経験しなかった「嫉妬」という存在が、同じ学校で生活するうえで、いつか経験することになるなと確信し、覚悟を決めておかないといけないと感じた。

 

 そしてついに遠足当日。友達と、バックに詰め込んでおいたお菓子を食べながら、二時間ほどバスに乗って目的地に着いた。そこには六組より早く到着していた、一から五組の人達がすでに、バスから降りて道を歩いているのが見えた。するとバスの後ろの方から


「一ノ瀬だ!」


という春菜ちゃんの声が聞こえてきて、まただよ、という心の声を押し殺して、初めての行事を楽しもうと思った。


朝から嫌なことを聞いてしまったと内心落ち込んでいたものの、遠足のプランをこなしていくうちに春奈ちゃんのことはすぐに忘れて、班で行うカレー飯盒を楽しんでいた。


遠足のしおりに書かれていたクラスごとの席の位置を見ると、二組がとても六組と離れていることに気がついた。飯盒が終わると自由行動ということもあったので、遠足で優輝を見つけるのは厳しいと思った。

 

 カレーも食べ終わり片付けの時間になると、すでに自由行動に移った他のクラスの人達が、六組に来たりしていた。私の班は若干遅れ気味だったのでみんなで素早く片付けをしていた。


ちょうど、私が鍋類を棚に返しに行くときだった。優輝が来ているのが見えた。もちろん一人ではなかったが、サッカー部の人たちと話しているのが見えた。その時、優輝と目があった気がしたが照れくさくてとっさにスルーしてしまった。本当は一言でも言葉を交わしたかった。


その後も片付けをしながら優輝を見ていると、何やら春奈ちゃんと親しげに話しているのが見えた。

その瞬間、胸に勢いよく何かが襲ってきた。苦しかった。


正直、小学校でも他の女子と優輝が話しているのは見たことがあったし、中学でも私がクラスの男子と話すように優輝がクラスの女子と話しているという事はわかっていた。それでも、自分が話しかけられない優輝と気やすく話している様子は私の心を痛めつけた。

 

 その後の自由行動では、友達とアトラクションに乗った。振り子のような乗り物で、テーマパークに最後に行ったのは数年前だったのですごく楽しかった。

ふわっと臓器が浮くような感覚がすごく刺激的で今までに乗ったアトラクションの中でもトップクラスに入るほど怖くて楽しかった。


アトラクションを乗り終えてから、もと来た道に戻る時、優輝がアトラクションに並んでいるのが見えた。目が合うと最初は少し戸惑ったような顔をしていたが、次の瞬間、優輝はニコッと笑った。その笑顔で、もうどうでもいいと思った。その笑顔が見れるならそれだけでいいと思ってしまった。悔しいけど本当にそう思った。その後は遠足中に優輝を見ることはなかった。

 

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