第6話 魔族の知り合いは魔族?

「ほら、見えて来たぞ」


 デュランザールが指差す方向に、見上げる程の高さのある門が見えてきた。小道が途切れて開けた場所に出ると、その街はぐるりと石壁に囲まれており、中の様子は窺い知れなかった。

 門は閉じられていて、その脇には槍を手にした衛兵が二人立っている。辺りを警戒し、門の出入りを制限するために立っているようだった。


 トーマ達以外に人はおらず、通れるような場所も見当たらない。もしかしたら壁をぐるりと回れば他の入り口もあるかと思ったが、それには構わずデュランザールは門へ向かって歩いて行く。


 トーマが付いていくと、二人に気付いた衛兵たちが視線を向けた。その目は主に鎧姿に向けられ、怪訝な表情がありありと浮かんでいた。

 それでもなお歩みを止めないデュランザールへ向けて、ひげを蓄えた衛兵が声を上げた。


「止まれ、ここに何の用だ!」

 

 衛兵が槍を構えた所で、デュランザールは足を止めた。


「人に会いたいんだ。通してくれ」

 衛兵はデュランザールとトーマを交互に見た。そしてもう一人の衛兵と顔を見合わせ、改めて口を開いた。


「申し訳ないが、今この街への出入りは禁止されている。日を改めろ」


 強気な口調で告げられ、デュランザールが憮然とした態度で言った。


「はぁ?何でだよ」


「町長より厳戒態勢中の命が下っている。詳しい理由は話せない」


「そんなんじゃ納得出来ねぇよ」


「納得せずとも、従ってもらわればならない」


 それ以上話すことは無いと睨みつけて来る衛兵に、何か言おうと一歩踏み出すデュランザール。衛兵たちは後ずさり、槍を握る手を強めた。身長はデュランザールの方が高く、その上全身を鎧で包んでいる見た目は、衛兵から見ても異質のものであるらしい。


 その場に緊張が走る。


 兜の中のデュランザールがどんな表情をしているのか分からないが、恐らくキレているだろうとトーマは察した。力に訴えようとする前にその腕を掴んだ。


「何だよ、トーマ」


 振り返るデュランザール

「殴るのはダメだよ」

「ちょっと撫でてやるだけだよ」

「デュランザールの撫でるがどんなレベルか知らないけど、多分ヤバいだろう?そんなことしたら二度と入れなくなっちゃうよ。そんなことになったら、中にいる人にも迷惑になっちゃうんじゃないの?」


 その言葉に、デュランザールが考える様な唸り声をあげた。この先のことを頭の中で想像しているようだった。


 デュランザールにとっての”撫でる”がどの位の力であるか想像するが、おそらくただでは済まないだろう。そうなったら厳戒態勢が解かれたとしても、今度は暴力沙汰が原因でこの門を潜れなくなるかもしれない。


 デュランザールが「ちっ」と舌打ちをする。


「分かったよ……」


 不満はあれど、無理やり押し通るのは諦めたようだった。掴んでいた腕を離すと、「ふん」と鼻を鳴らした。

 空気が弛緩するのを感じて、ひげを蓄えた衛兵が右手を遠くへ伸ばした。


「いつになるかは分からないが、寝泊まりするなら向こうの道の先にナルの村がある。そちらへ向かってくれ」


 もう一人の衛兵も頷いている。


「アタシらは寝泊まりに来たんじゃねーの」


 なおも文句を言うデュランザールをなだめようとした時、門の向こうで爆発音が聞こえ、地面が幾度となく揺れた。

 門の向こうで何が起きているのかトーマは理解できず、デュランザールを見てもそれは同じようだった。

 しかし衛兵は何かを知っているのか、肩を震わせ、その目には恐怖の色が浮かんでいた。


 少し遅れて悲鳴や怒号が聞こえてくる。

 空には黒煙が上がり、焦げ臭さが鼻を突いた。


 煙を見つめていると、石壁の上に何かが現れた。獣のように手足を付き、外の世界を睨みつけている。

 風が吹いて煙が流れると、次第にその姿が露わになった。

 煤で汚れているが、遠目でも分かる金色の髪。長く伸ばしっきった髪の隙間から、赤い瞳が妖しく光っていた。

 ボロボロのワンピースから伸びる手が骨張っている。


 獣に見えた何かは、一人の妙齢な女性だった。


「アルティナ!」


 デュランザールが叫ぶ。その目は石壁の上に立つ女性に向けられている。


 その声が聞こえたのか、アルティナと呼ばれた女性はこちらを見た。声の主に気付くと、一瞬口を開きかけたが、すぐに歯を食いしばり、頭を抱え始めた。

 唸り声が周囲に木霊する。


「どうしてあんなことに……」


 零れ出るデュランザールの問いかけに、誰も答えることは出来なかった。

 衛兵はそれどころではないという風に、門とアルティナと呼ばれた存在を交互に見て、何をすべきか判断に迷っているようだった。


 やがて右手を振り上げた。その掌に赤い球が生まれ、それがどんどん大きくなっていくと、それがトーマたちの方へと放たれた。


 目の前に巨大な赤球が迫ってくる。


「うわぁ!」


 逃げ場の分からないトーマと衛兵は身を縮めることしか出来なかった。

 トーマが叫び声を上げて動けないでいると、デュランザールがトーマの前に立ち塞がった。


 そのとき、デュランザールの右手に電流が走った。するとそれが長柄の斧を形作り、漆黒の籠手の中に収まった。

 それはデュランザールが戦うときに必ず持っていた武器だった。

 しかしその斧にはトーマの記憶にある赤黒い血は付いていなかった。


「おっらぁ!」


 気合を入れたデュランザールは、飛来する球を斧でぶった斬った。大きなエネルギーがせめぎ合い、球は弾き飛ばされて消えていった。


 顔を上げたときには、アルティナは石壁の上を走っていった。黒煙に紛れて消えていったが、衛兵の一人が力なく声を出した。


「あの方向は、ナルの村が……」


「追うぞ!」


 デュランザールが、トーマの返事を待つことなく走り出す。


 先を行くデュランザールに置いて行かれないように、トーマも慌てて追いかけた。

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『デモンズクエスト』~正しいバグの見つけ方~ 月峰 赤 @tukimine

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