第1話 祖父と孫

空は、綺麗なオレンジ色に染まっていた。

バスから降りたおれは、ビルのデジタルサイネージを見て驚いた。

 いちおくごせんまんねん?

どうやらおれは、1億5千万年にタイムリープしてしまったらしい。


おれはびっくりして、しばらくその場に立っていた。

「これは夢、か・・・?」

どっからどう見てもこれは夢だ!

そう思いながらも、おれはほっぺをつねった。


ー痛い。


ということは、現実⁉︎

まさか、秋子の言ったことが現実になるなんて・・・!

おれは、バス停から歩き始めた。

歩道には学生みたいな人が歩いてるけど、おれみたいに学ランの人なんかいない。

やっぱここは、1億5千万年か・・・。

ん?

おれは足に何か引っかかったような気がして、下を向いた。

誰かのお守りが落ちていた。

「お守り、どこ行ったんだろ・・・?」

おれの目の前に、同い年くらいの女子が歩いていた。

赤い四角のフレームのメガネに、ロングヘアの茶髪。そして、どっかの中学校の制服とリュック。

不安になりながらも、近くにいたその女子に声をかけてみた。

彼女はお守りを探している様子だったが、俺の声に振り向くと驚いたような表情を浮かべた。

「あの、もしかしてこれのこと?」

おれは手にしていたお守りを見せる。

その女子は、目を大きく見開いて、ゆっくりと近づいてきた。じっとおれの顔を見つめ、その途端、まるで何かを思い出したかのように表情が緩んだ。

彼女はおれの顔を観察している。

「えっ、あの・・・?」

おれは戸惑った。

「それ、私のお守り!」

彼女の声が、少し震えているように聞こえた。

「ありがとう、助かった・・・!本当にそれ、探してたの」

おれは、顔に笑みを浮かべて言った。

「良かった。落としたのは平気なのか?」

彼女は頷いて、お守りを受け取る。その指先が触れる瞬間、どこか懐かしい感じがした。まるで昔から知っているような・・・なんだか不思議だ。

「そういえば・・・」

その女子は話し始めた。

「そのお守り、おじいちゃんにもらったもので・・・。実は最近、おじいちゃんとおばあちゃんの家で見た写真に、あなたにそっくりな人が写ってたの。もしかして、あなたもその人の血縁なの?」

その言葉に、俺は驚いた。

ケツエン?

まさかそんなことがあるのか?

どんな写真だ、と思う間もなく、女子が言葉を続ける。

「その人の名前は田中達也だった。私のおじいちゃん」

心臓がバクバクする。まさか、おれの名前を知っている人がいる?

しかも、目の前のこの少女が言っているのは、このおれがずっといた時代の話じゃない。

おれは一瞬戸惑った。

「・・・おれは、田中達也だ。」

言葉が自然と口をついて出た。信じられない気持ちでいっぱいだった。

彼女は再び驚いたような顔をして、

「本当に・・・あなた、私のおじいちゃんなの?どうしたの、ここで?」

と言った。

それからおれは、ここの時代に迷い込んでしまったこと、自分が何もかも嫌になっていて、突如としてこの1億5千万年の未来に来てしまったことを話した。彼女は熱心に話を聞いていて、よく頷きながら、その反応を見せてくれた。

「私、ここには1年前に来たの。2024年からタイムリープしてきちゃったんだ。ずっとこの時代には馴染めなかったけど、1年経って、やっと馴染んできた」

目は、興奮と期待で輝いていた。

おれはただただ驚くことしかできなかった。運命的な出会い、そして彼女が、自分の家族の一部分と結びついているということに、身震いがした。これが、本当の縁というものなんだろうか。

「なあ、お前。1つ聞きたいことがある。名前は?」

「あっ!名前言うの忘れてた!私は田中友美子たなかゆみこ。あなたの孫」

そうか。この人がおれを「おじいちゃん」と呼ぶなら、この人はおれの孫だ。

「よろしくな」

「ねえおじいちゃん。この時代の東京、分からないとこだらけでしょ?私が教えてあげる」

おれはこの時代の東京を、友美子に教えてもらうことにした。

おれたちは、太陽が沈みかけている空の下を、歩き始めた。

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