第3話



「――で、どうだった?」

「…………」



 翌日、学校に来て事績で大人しくしていた俺の元に伊藤が来た――というより、詰め寄ってきている。コイツはパーソナルスペースがないのか、本当に顔がいちいち近い。

 昨日の今日で聞いて来たと信じてるコイツに感心を覚える。いや、誰か遠慮というものを教え込んでくれ、という感情が強いかもしれない。

 肩を掴んで催促する伊藤に呆れと鬱陶しさを味わっているとき、またそれが聞こえた。



「――雨よ! 降れ……!!」



 ビリビリと鼓膜を揺らす、大きな声に教室の窓の方へと顔を向ければ、両手を広げ、空に向かってる雫がいた。



「なあ、聞いたんだよな? あの奇行はなんなんだよ」



 なお一層、揺さぶられる感覚に視界がブレるわけで、酔いそうになる。しかも、奇行って失礼極まりない――確かに、奇行だけど、俺は知ってる。

 彼女に自論で言う頭痛がするから雨乞いをしていることを。

 こんな奴に話したところで勝手にドン引きして、話を盛って、言い振り回すのが見えてる。教えてやる義理はない。もし、本当に知りたいのなら、自分で聞くべきだ。



「――さあな」



 地震の前に頭痛がするのも、雨が降ると自身の威力が弱まったり、なくなる気がする――なんて、全て彼女の自論で仮説だ。根拠もなければ、照明もされていない。研究したい奴がいるなら、研究してぜひともその結果を教えて欲しい。そんな奇特な研究者がいるならの話だけど、コイツはそんな奴じゃない。

 いろいろぐるぐると考えた結果、はぐらかすことにした。



「何で聞いてないんだよー!」



 さらに激しく揺さぶられたが、もうどうでもいい。うざったらしい伊藤の手を払いのけてうつ伏せになれば、アイツも何もしてこない。ずっと文句を俺の前で言ってはいたけど、無視し続けられて不満だったのか、はたまた飽きたのか。いつの間にか傍から離れていた。



「……」



 うつ伏せになっていた腕の隙間から、窓際の方へとちらりと覗き込む。雫は変わらず、空に願いを届けていた。きっと、これからも不思議な彼女は適度な雨を乞うのだろう。地球の頭痛を収め、熱を冷ますために――。

 その真実を知っているのが自分だけだという特別感に胸が躍ったのは内緒だ。


 

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雨宮雫は信じて疑わない 水月蓮葵 @Waterdrag0n

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