すっかり夜になってしまった。今日は否応がなしに実家に泊まることになる。少しそんなことにもためらいつつ、時間を見つけては実家を掃除し、絡まりまくったつたを全部剥ぎ取っていくにはちょうどいいとポジティブに考えるようにした。


 家は完全に硬く閉まっていた。いつもは少し空いている勝手口も、完全に固定されていて、これはゴミ屋敷のみならず要塞と言ってもよいような不気味さをまとっている。窓を強く叩いた。アルミのサッシが乾いた音を二度立てる。嫌な予感がして、先に坂間さんに会いに行った。


「ごめんねえ、忙しいのに」

「いえいえ、頼んだのは私ですし、私の実家ですから」


 すると奥から大きな声がして


「ええ、あそこんちの人なのお? 早く片付けてよお、臭すぎるよ。顔も怖いし。でもさ、あの人とぜんぜん顔違うんだね、ほんとのお父さんお母さんじゃないの?」


 ユウジ、やめなさい、との声がしたが、私はいえいえ、と言ってごまかしておいた。事実、今の父親と産みの父親は違うのだから、その指摘は半分正しいといえる。


 こわいわよね、一緒に行ってあげるわ、ユウジ、静かに待ってなさい、エミ、お米炊いといて。と言うとエミ、と呼ばれた子はどこからともなく出てて来て、はーいと答えた。不意に涙が出てきた。それを懸命にこらえていると、一緒に行ってあげるから、ね、となだめる坂間さん。いや、そうじゃない、そうじゃないの、と思いながら、はい、ありがとうございます、という自分しか演じることができなかった。


「坂間さん、ここで待っていてください。何かあったら連絡します。」


 と、粗大ごみの前に坂間さんを置いて、荷物も預け、やけに多いハエと長すぎる雑草の中に足を踏み入れた。鍵を取り出して鍵穴の中に入れ、力任せにひねると、キリキリ言いながらやっとのことで鍵が開く。この状況でどうして外出したのかしら、と思いつつ、次は雪崩れてくるゴミの山を足で蹴り飛ばしながら家の中に土足で踏みこんだ。

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