第26話 空が描いた絵

空さんにからかわれてまだまだ鼓動が早いけど、それを見ていた温海は


「人がイチャつてるのを見るって……こんな恥ずかしいのね……」


と言って、顔を赤くしながらジュースを飲んでいる。


「いやぁ、わたしも焦ったよ。一瞬本気になった空さんの表情はやばいよ」

「夕も本気になったらやばいわよ……」

「そうだろうね……」


わたしと温海は顔を見合ってため息をついたが、恐るべし夕の一族。

わたしも夕も何も言わずに、ジュースを飲んで空さんがおつまみとして

頼んだルームサービスを、黙々と食べている。

そして、そんなわたしたちを見て、空さんはさらさらっとスケッチブックに絵を描いてる。


「空さんってアナログでも描くのですね」

「そうだよ~スケッチブックでも描くよ~」

「でもってことは、普段はデジタルですか?」

「今は殆どデジタルじゃないかな。わたしはどちらかというと、趣味でスケッチブックに描いてるけどね~」

「なるほど」


わたしと話しながらも、空さんはスケッチブックで絵をどんどん描いていくけど

描く速度が速い上に、ちゃんとうまいからさすがプロの漫画家になるだけある。


「さすがプロですね」

「一応はね。でも、実家暮らしだからやっていけてるけどね~」

「そうなんですね」

「多分、デビュー年数に割には稼いではいると思うけど、1人暮らしはまだ厳しいし、競争は激しいからね~」

「空さんがいつまでもお仕事出来ますように、わたしと温海が買い支えます」


わたしがこう言うと温海は


「なんであたしもなのよ」


といからわたしは


「恋人の親戚のお姉さんだからいいでしょ」


と返すが、温海はいつもの『は?』って顔をしてる。


「そうだとしても、買い支えるのは無理よ」

「ちょっとしたノリだから、本当に買い支える訳じゃないって」

「わかってるわよ。でも、文乃が言うと本気ぽく聞こえるのよ」

「半分本気だけどね」

「半分は本気じゃない」

「冗談だって」

「うん、文乃ちゃんと温海ちゃんのやり取りも、いいつまみだね~」


わたしと温海のやり取り見て、空さんはニヤつきながらお酒を飲む。


「なんか、つまみにされると嬉しいかも」

「文乃、自分が言ってる事わかってる?」

「わかってるよ。だって空さんの気持ちは十分にわかるし」

「さすがにお酒はまだ飲めないけど、飲めるよう年齢になったら文乃ちゃんとはいいお酒が飲めそうね~」

「その時が来るまで、空さん、待っててて下さいね」

「え、それってプロポーズなの?」

「ち、ちがいますよ。お酒を飲むだけですよ」

「そうだとしても……その時はお互い大人だから……いわなくてもわかるよね~」


空さんはそうって、目を細めて流し目でこちらを見るがこれがまた色っぽくて思わず唾を飲む。


「なんて~冗談よ~」

「空さんが言うと、冗談に聞こえませんよ」

「ふふふ、だって文乃ちゃんと同じで半分は本気だからね~」


そう言って、空さんは目を細めてこちらを見る。


「だ、ダメですよ、18禁になっちゃいますよ」

「そうだね、18禁はだめだよね~。でもね、2人を見て想像で18禁の絵を描いたよ~」


そういってスケッチブックをめくってその絵が描かれているページをわたしと温海に見せる。


「おお、流石うまいですね。胸の形も似てますね」

「一緒にお風呂に入ったからね~」

「ちょ、ふ、ふ、文乃……な、何で感心してるのよ!?」

「え、だって、実際にうまいしエッチだし」

「だ、だからよ!じ、自分のは、裸を描いた、え、えっちななのよ!?」

「別にいいじゃない。裸体スケッチみたいものだし」

「よ、良くないわよ!あと、裸体スケッチとは違うわよ!」


温海は顔どころか全身まで真っ赤にしてるが、なんかこのままだと泡を吹いて倒れそうなので


「空さん、温海には刺激が強すぎた様ですから閉じましょう」


と言うと


「しかたがないな~」


と言って、空さんはスケッチブックを閉じた。


「もう、文乃はなんで平気かわからないわ……」

「温海は彼女がいるのに、恥ずかしがり過ぎだって」

「べ、別にいいでしょ……」


温海はそう言って、グラスを口にするがグラスの中は空っぽだった。


「温海、空だよ」

「そ、そうね」

「飲むなら注いであげるよ」

「そうね……もういいわ。口直しに炭酸水でも飲んでおくわ」


温海はそう言って、冷蔵庫から持って来た炭酸水をグラスに注ぐとそれを飲む。


「炭酸水をそのまま飲むって、なんかあれだよね」

「あれってなによ」

「なんていうか、意識高い系というか有名人の身体を大切にしてますって感じ?」

「なんか、バカにされてるように聞こえるわね」

「バカにはしてないけど、フレーバーや無糖の炭酸水って飲まないからちょっと大人って思っただけだよ」

「そうだとしても、なんか言い方が引っ掛かるわね。でも、大人って言われるのはちょっと嬉しいけど……」


温海は大人と言われてちょっと喜んだけど、こう言うところが子供ぽいけど

これが温海のかわいさでもあるけどね。


「そういえば、今何時だろう」


時計を見ると、時間は22時近くだった。


「もう22時か」

「もうそんな時間なのね」

「夜はまだまだって言いたいけど、明日は車の運転があるし、お酒も丁度空になったからそろそろ寝ようか~」

「ですね」

「夕も結局寝たままだし、なんか楽しんだら眠くなってきたわね」

「そうだね、わたしもなんか急に眠くなってきたな……」


わたしはあくびをしながら伸びをするけど、急に眠気が襲ってきた。


「それじゃ、部屋の戻ろうか。お酒の瓶は持って行くわね~」

「わかりました。こちらの部屋の片づけはやっておきます」

「それじゃ、温海お休み」

「温海ちゃん、おやすみね」

「文乃、空さんおやすみなさい」


わたしと空さんは温海たちの部屋を出て、自分達の部屋に戻る。

歯磨きや着替えをすると、空さんも眠いと言ってベッドに入るとすぐに寝てしまった。

そしてわたしも、空さん同様にベッドに入るとそのまますぐに眠りについたのだった。

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