十五日目

 目的の白い羽を見つけた日から新たな発見はない。現在、標高約2000m地点の森林にて捜索を継続しているが何の手掛かりも得られていない。少しの焦りはあるが前室長のフィールドワークの期間から考えるとまだ短いのだろう。むしろ、魔法生物や熊に遭遇していないことを喜ぶべきなのかも知れない。熊やマンドレイクの亜種がいる痕跡はあったものの見かけてすらいない。これを怪しいと見るか幸運と見るかは我々次第だが、ただの幸運であって欲しいものだ。



 我々はこの十五日目を以て山の全体像の把握を完了した。途中でソラが嬉しそうに鳥の話ばかりしていたが、大丈夫なのだろうか。ずっと上ばかり見ていたので少々不安が残る。仮に何処か確認できていない場所があれば遭難することも考えられる。たとえ遭難したとしても、救難信号用の魔法 《火球》を使えるように訓練を受けているはずだから心配はないだろう。

 しかし、それでも彼の危なっかしさは気になる。研究所内でも話題にはなっていたが、今回同行して分かった。あれは鳥中毒だ。一目見かけただけの鳥からある程度の生態系を当てて見せた。さらには、カラスの鳴き真似をして、二、三匹のカラスが寄ってきた時は驚愕した。彼は魔法もなしにビーストテイマーの真似事をやってのけたのだ。


 記録しながら閃いたが、もしかしたらフェニックスの捜索を鳥達に協力してもらうことも可能なのではないだろうか。もし可能ならばとても役に立つどころの騒ぎではない。彼らならばこの山のことを熟知しているはずだ。探すまでもなく聞くだけでフェニックスの居場所が分かるだろう。これは何があってもソラに頼むべきだ。瞬く間に今回の調査が終わるかも知れない。


 現在は目的の白い羽を発見した川の上流にある湖の近くで野営をしている。フェニックスが水浴びを行う場所は未だ不明だが、ここである可能性は高い。遭遇する確率を上げる手段としては悪くないはずだ。


 まずい。緊急事態だ。例のカラスに目をつけられたようだ。私たちがいるのとは湖を挟んで反対側に大きく黒い何かがいるらしい。どうやら縄張りに入ってしまったようだ。ただじっとこちらを観察しているのみでこれといった動きは見られない。動いて獲物だと思われてもまずい。とにかく刺激しないようにと、留まることになった。


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経過時間は不明だが例のカラスは去ったようだ。今回は何とかなったものの次また生存できるとは限らない。念のためこの湖周辺に近づくことは止めておく。明日は気を取り直して、捜索を継続しよう。


これからは、川の周辺を捜索する班とその他の場所を捜索する班で別れる予定だ。川の捜索は私とモロ、その他の場所はスピナとソラですることに決まった。私とモロは魔法探知機でフェニックスとカラスの魔法の痕跡やその特徴を調べる。スピナとソラは生物的な痕跡を調べる。


今はとにかく新しい情報が欲しい。推察もできないこの状況をどうにか打開したい。ただ私が不安なだけだろうが。私の新たに開発した魔法探知機に何かしら反応があることを願うほかない。



ところで、前回の余談の件を相談したところ、スピナからは努力するとの返事を貰ったが個人的には納得のいく変化はない。微細に変わった気はするもののそれでもやはり臭い。日本の豚というのは食べるためにどれほど品種改良を重ねたか、どれほど調理工程を意識していたのかをうかがい知れる。少しでも料理に関する勉強をしておけばよかったと今になって少し後悔している。



 勇者暦7■■年

 3代目 《極端な勇者》

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