第4話 はじまりの花火
ジャスミンはカルキノス家に連れ帰られた。ここまでは計画通り。問題は、花火の上がるタイミングだ。
当然のことながら、ジャスミンを蘇生したのはユーリウスを喜ばせるためなんかではない。ある意味ではプレゼントなのだけど。ジャスミンは、ただのラッピングだ。リボンを解いて箱を開けるのはユーリウスなので、箱がいつ開かれるかはオレにもわからない。なるべく人がいる場所で開いてくれると良いのだけど。花火は多くの人が見てこそ価値があるのだから。
理想的なのは、カルキノス家で茶会を開いてくれることだな。あの様子では家から出さないだろうから、人は外から招く形になるだろう。招待客の中にこの世界で重要人物が混ざってくれていたら最高だ。
調べてみたところ、まだゲームが開始するより前の時間軸のようだからゲーム開始までに何人退出してくれるかな。勇者として覚醒してしまうと厄介だ。
煌めきの乙女と勇者。その一人一人が伝説の武器に選ばれた強者だ。ユーリウスも専用武器として二刀流の剣に変形する巨大なハサミを手にする。因みに造形はダサい。いや強いんだけどね。でも勇者の武器が強すぎて敵キャラが全員雑魚になるので、タップゲーやら作業ゲーやら言われていた。ゲームバランス取ろうとして敵キャラの数を増やしたのも悪手だっただろうな。雑魚敵なのに数は多いから時間がかかって、ゴキブリ扱いされてた。
そんな反則武器を持った存在が一人と十三人である。武器を手にする前に殺した方が良いと思うだろう?でもただ襲撃するだけでは変な刺激になって勇者としての覚醒を早めてしまう可能性もある。
だからこそ、こんな回りくどい手段を取るしかなかった。呪われた赤い靴を自ら履きたくなるように、艷やかで魅力的に見せてやったのだ。
「呪われたと気付いた時に、果たして足を切り落とせるかな?」
それとも死ぬまで踊り続ける事を選ぶか。
嗚呼、愉しみだ!
* * *
その日、カルキノス家では小規模なガーデンパーティが開かれることになった。殆ど親戚ばかりだったが、ユーリウスの友人やジャスミンの生前の友人も招待された。尤も、ジャスミンの友人はパーティに参加しなかったが。
そもそもジャスミンが亡くなったのは、ユーリウスとデートをしている最中に暴漢に襲われたからだ。ユーリウスはデートの締め括りとして、噴水が美しい公園でネックレスを差し出し愛の言葉を囁いたのである。それを見た一人の男が近付いてきて言った。
「高そうなもん持ってんじゃねえか。ムカつくんだよ。幸せそうな姿を見せつけやがって。当てつけか。貴族の坊ちゃん嬢ちゃんはいいよなぁ。身体が痒くて眠れねぇことも、腐った残飯を食ったこともねぇんだろ。少しくらい恵んでくれても良いんじゃねぇのかぁ?ええ?」
男は酔っているようだった。目は濁りきり、身体から今まで嗅いだことのない悪臭がする。ジャスミンはプレゼントされたネックレスを握り締めて後退りした。その態度が更に男を刺激する。男はブツブツと独り言を呟きながら刃物を取り出し、ユーリウスへと突き出した。
「ユーリウス様!」
男の凶行に動けずにいたユーリウスをジャスミンが突き飛ばす。そして刃物はジャスミンへと深く突き刺さった。
「ジャスミン…!」
「おれは、おれはわるくねぇ、この女が突然飛び出してきて、ちょいと痛い目をみせてやるつもりで、ころすつもりは」
男は逮捕されたが、ジャスミンはそのまま帰らぬ人となってしまった。それが事の顛末である。故にジャスミンの家族や友人達は、ジャスミンを守れなかったユーリウスを恨んでいる。あんな場所でプレゼントを渡さなければと憎んでいる。ユーリウス自身、何度自分を殺してやりたいと思ったことか。
だが今はジャスミンが隣りに居る。神の奇跡として、ユーリウスのもとに帰ってきた。今回のガーデンパーティは、ジャスミンを御披露目するためのものだった。気が狂っていると思われても良い。ジャスミンが帰ってきたのだと、信じたかった。
ユーリウスは一通り挨拶を交わし、屋敷の中で待機していたジャスミンを呼ぶ。愛おしげにジャスミンを見つめ、手を伸ばした。
が、ジャスミンの手はユーリウスの手の中で崩れた。驚愕するユーリウスがジャスミンを見る。手だけではなく身体も崩れていき、ジャスミンは声にならぬまま口を動かしていた。
カツンッーーーー
ジャスミンの崩れた身体の中から、何かが落ちる。骨かと思ったが、透明感があり、宝石の様に輝いていた。
ユーリウスはそれがなにかを知る前に、轟音と強い衝撃と共に意識を失った。
「おー、昼に見る花火もいいねぇ。やっぱり花火は派手じゃなきゃ。た〜まや〜」
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