第3話 悪魔は神を真似る

 蘇生魔法で思い付いた事がある。それを実行する為にオレは肉盾代わりに蘇生した二人と教会に来ていた。名前も言えないので「アダム」「イヴ」と名付けた。どっちかが死んだら名前は使い回すつもりである。アダムはクスリで、イヴは酒の飲み過ぎか性病で死んだようだった。蘇生魔法で身体は治っているから、どんな死体でも問題はない。遠慮なく使い捨て出来る肉人形が幾らでも補充出来るスラム万歳である。

 二人と共に教会に忍び込み、目的の場所を目指す。教会の構造自体はゲームと変わらないようなので、道に迷うことは無い。夜中では見廻りのシスターが居るくらいで、見つかったところで制圧は出来るだろうが、これからすることを考えると侵入したと気付かれない方が都合が良い。影に隠れながら進めば、無事に目的地へと到着した。

 『ワンダフルトロピカルワールド〜キラメキ乙女と十三人の勇者達〜』では、その名の通り『煌めきの乙女』と『十三人の勇者達』が存在する。この教会は、乙女と勇者達が修行したりアイテムを手に入れたりする場所だ。勇者の二人と関わりが深い場所でもある。一人はこの教会の息子。もう一人は、教会に恋人の墓がある勇者だ。名前をユーリウス・カルキノス。カルキノス侯爵家の次男で、陰のあるイケメンとして作られた存在だ。実際はウジウジしてるし卑怯者の臆病者で人気は低かった。

 この世界では、土葬が一般的である。つまり墓を掘り起こせば蘇生魔法をかけることが出来る可能性が高い。もし蘇生出来なったとしても別にリスクも無いしやってみてもいいだろう。

 魔法で墓を掘り起こし、露出した棺桶の蓋を開けた。中の遺体は既に骨になっており、首からは青い宝石のついたネックレスが掛けられている。俺はこの骨の顔を知っている。ならば魔法で肉体を作り直してやれば良い。肉なら余るほどあるのだから。オレは棺桶の蓋を閉じて抱えると、掘り起こした土を元の状態へと戻しパッと見ただけで掘り返したとは気付かれないようにした。


「さあ、感動の再会を演出しよう」


 神に泣いて感謝をするような再会を!



 * * *


 ユーリウスは突然止まった馬車に「何事だ」と御者に声をかけた。御者は慌てた声で謝罪を口にする。

「申し訳御座いません!人が倒れておりまして…」

「何?」

 御者の言葉にユーリウスは馬車の窓から外を見た。夜会の帰りで辺りはすっかり暗く、目を凝らしても御者の言う人物は見えない。ユーリウスは魔法で光の玉を作ると、ふよふよと宙に浮かせて前方へと放った。光に気付いたのか、丁度人影が身体を起こすところだった。

 普段のユーリウスであれば、こんなに怪しい人間に近付くことはない。馬車から降りることもなかっただろう。だが倒れていた人物の顔を見て、ユーリウスは衝動的に外へと飛び出していた。

「ジャスミン…?」

 ありえない。彼女は死んだ筈だ。ユーリウス自身も遺体を見ていたし、葬儀にだって参加し、棺に土だってかけたのだ。だから目の前の存在は、ジャスミンに似ているだけの別人。そうに決まっている。

 だがユーリウスの身体は己の考えとは裏腹に無防備に近付いていく。その顔をもっとよく見たかった。髪に触れたかった。声を聞きたかった。温もりを感じたかった。

 ユーリウスはジャスミンに手を伸ばし、そのまま抱き締めた。溢れる涙が止まらない。この匂い、この感触。ジャスミンだ。彼女が帰ってきたのだ。

「ジャスミン…ジャスミン、ジャスミン、ジャスミン!!」

 流れる涙をジャスミンの細い指が拭い取り、微笑む。もう見ることの出来ないと思っていた笑顔を見て、ユーリウスは堪らず彼女の頬に口付けをした。


「ちょいとベタすぎたかな。まっ!王道ということで」


 その様子を悪魔が見て笑った。

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