第2話 魔法を創ろう!

 スラム街で死体を見つけるには?

 とっても簡単、なんと道を歩くだけ。それだけでゴロゴロと死体が転がっている。老若男女よりどりみどりちゃんである。刃物が刺さっている者、クスリをやりすぎて泡を吹いている者、下腹部だけが膨らんだ痩せこけた者。犬も歩けば棒に当たるというが、人も歩けば骨に当たるっていうね。あ、コイツまだ生きてるじゃん。生者にゃ用はねぇ。

 さてさて、なんで死体を漁っているのかというと人員補充のためである。ただ補充するだけじゃ駄目だ。オレのことを裏切るリスクの低い存在でなければ。と、いうわけで死体である。え?死体は動かないって?お忘れだろうか、この世界には魔法が存在しているという事を。

 魔法も万能というわけではない。だが万能に近い存在だ。魔法は基本魔法と創作魔法が存在しており、基本魔法は魔導書や養成所で教わることが出来る魔法だ。そして創作魔法は新たに自分で創るオリジナルの魔法である。魔法の可能性は無限大。魔法は縛る条件を具体的かつ限定的に設定するほど、イメージ通りに実現出来る。例えば太陽を創るとして、夜間太陽が見えない時間に限り直径十五センチで表面温度が千度の疑似太陽ならば実現可能だろう。使用する魔力量は相当なものになると思うが。

 死体を動かすだけなら、条件付けは簡単。なのだが、オレは意思を持って且つオレを裏切れない存在が欲しい。ということで死体を蘇らせようと思ったのだ。条件は「三大欲求の制限」「日中活動の制限」「行動範囲の制限」をつけた。食欲はあるが食べても美味しいとは感じられず、睡眠欲はあっても眠れず、性欲はあるが人の温もりも快楽も失う。陽の下で活動することは出来ず、オレから長時間離れると死体に戻る。

 これくらい条件をつければ蘇生は可能だろう。記憶障害は起きるかも知れないが、本人の性格はどうでもいいので問題無い。オレは試しに絞殺された若い女の死体に魔法をかけてやることにした。

 見開かれ濁った目が光を取り戻す。頬に赤みが差し、数度瞬きをしたことでオレは魔法の成功を喜んだ。

「あうっ、あっ…」

「ああ。まだ生き返ったばかりだから喋れないと思うぞ。取り敢えず生還おめでとう。そしてありがとう、さようなら」

 一度蘇生したら魔力供給を切っても問題はないようだ。次にするのは条件付けが正しく行えているかの確認である。丁度日が昇る時間なので、日中の活動制限がどのような形で生じるかを調べておこう。

 まだ蘇生したばかりで動けない女の身体を掴むと、陽光が当たりそうな道へと女を投げる。女は受け身を取ることも出来ずに倒れ込んだ。砂利が女の柔らかな皮膚を引っ掻き、女の頬に擦り傷が出来た。

 女は何が起きているのかも分からずに昇り始めた太陽を見た。ジリッと陽光が皮膚を刺し、燃やす。女は燃えていた。あまりの熱さに手足をバタつかせながら、女の身体は焼けていく。まるで獣の咆哮の様な声を上げて、数十分ほどで女は動かなくなった。女の身体は太陽に焼き尽くされ灰になり、風に攫われていく。肉の焼ける焦げた臭いだけが残っていた。

「使い方によっては良いかもな。証拠が残りにくい」

 肉の臭いに腹が鳴る。帰ったら絶対に肉を食おう。

 スラムの死体が一つ無くなったことを気に掛ける人間は、誰も居なかった。

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