第52話 廃材キノコはキケンな美味さ



「ヘンリーねーちゃんこっちこっち!」



「ねーちゃんおそいぞ~!」



「……おねーちゃん、走るの苦手?」



「はあ、はあ……あ、あなた達が元気すぎるのよ……」



 こ、こんにちは、ヘンリエールです。

今日はスラム街の近くで仕事があったので、帰りにちょっと寄って子供達と遊びました。

しばらく遊び回ってお腹が空いたので、みんなに奢るから料理屋さんを紹介して欲しいと言ったところ『美味しいキノコ鍋のお店がある』ということで、今はそのお店に案内してもらっています。



「ここの下だよ!」



「はあ、はあ……ここって、ガレキの山じゃない……」



「地下に店があるんだ! アジトみたいでかっこいいだろ!」



「……キノコ、育ててるの」



「キノコ? ここで栽培してるの?」



 子供たちに案内されたのは、スラムの端にある廃棄された木材などが積み上がったガレキ山の地域だった。

この山の地下にお店があるらしい。

だ、大丈夫かしら……



「はい、とうちゃーく!」



「ここだよ、ねーちゃん!」



 〝キノコ屋・腐山〟



「腐った山……」



 か、帰ろうかしら。



「……おねえちゃん?」



「なんでもないわ。さあ、入りましょう」



 廃材を組み合わせて作った感じの階段を降りていき、お店の中へ。



「らっしゃい……って、ガキどもか」



「今日はちゃんとしたお客さんもいるぜ!」



「ど、どうも」



「ほう、ずいぶんと真っ当そうなエルフの嬢ちゃんだな」



 お店の中にはドワーフ族の店主さんが一人。

みんなで席に座って、料理を注文する。



「どれがオススメかしら」



「えっとねー、この『闇キノコ鍋』ってのがいっぱい入ってて安いぜ!」



「美味い時と不味い時があるけどなー!」



「それは止めときましょう」



 何が入ってるか分からないのは流石に怖すぎる。



「……これ、好き」



「なになに……『サイケデリックスープ』……」



「これ飲むと、お星さまとかお花畑とか見えるの」



「…………」



 どうしましょう。

このお店通報した方が良いかもしれない。



「あの、ある程度お値段しても良いので、安全で美味しいのをお願いしたいんですが……」



「じゃあ、この『チーズグラタンマッシュ鍋』なんかどうだ?」



「それめっちゃ高いやつじゃん!」



「食ってみてえ~……」



「じゃあ、それを人数分で」



「はいよ」



「……おねーちゃん、太っ腹」



「太くないわよ」



 …………。



「待たせたな」



 しばらくすると、大きな土鍋にグツグツと煮込まれたキノコとチーズ、それからマカロニが山盛りに入った料理が運ばれてくる。



「熱いから、気を付けて食えよ」



「「はーい!」」



 みんなで取り皿によそって、フーフーしながら一口。



「森羅万象の恵みに感謝を。いただきます。ふー、ふー……はぐ」



 ……もぐもぐ。



「ん!」



「「うま~い!!」」



「……美味しい」



 想像してたよりも美味しくてびっくりしてしまう。

濃厚なチーズに、キノコの旨味がマカロニの美味しさを更に引き立てる。

驚いた……まさかこんなところでこんなに美味しいキノコ鍋が食べられるだなんて。



「美味いか?」



「はい、美味しいです!」



「そうか……それじゃあこれも、サービスだ」



「えっ? こ、これって……」



 店主さんがサービスで謎の青みがかった不思議なスープを出してくれる。

あれ、これってもしかして、サイケデリック……



「「わーい!!」」



「……神のスープ、きた」



「ま、まさかね、映えを狙っただけの普通のスープよね……ふー、ふー……ずずっ」



 …………。



 このお店のことは、秘密にしておこう。



 ―― ――



「あの、お会計お願いします」



「1600エルだ」



「や、安い……はい、ごちそうさまでした」



「「ごちそうさまでした!」」



「……でした」



「星空と花畑が見たくなったら、またいつでもどうぞ」





 …………。





 ……………………。





 目を閉じれば、億千の星。




 【キノコ屋・腐山/チーズグラタンマッシュ鍋、サービスの青いスープ】



 ・お店:ジメジメしてる。



 ・値段:めちゃめちゃ安い。



 ・料理:かなり美味い。味覚だけじゃなくて視覚まで楽しめる。



 ヘンリエール的総合評価:77点。

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