第53話 バエるふわふわかき氷



「ヘンリエール、はやくはやく!」



「暑いのに元気ねあなたは」



 こんにちは、ヘンリエールです。

今日はわたしが働いている商業ギルド『カゼマチ食品』の同期である妖精族のメロと一緒にとある屋台に向かっています。

季節は夏真っ盛り、ちょっと出歩いただけで汗がだらだら。



 〝チリツモ☆アイスマウンテン〟



「はやくしないと溶けちゃうよ~!」



「注文してから作るんだから溶けないわよ」



「メロが溶けちゃうんだよ!」



 今回やってきたのはメロのお家の近くにある公園で屋台を出しているかき氷屋さん。

なんでも普通のかき氷と違って氷がフワフワで山のように盛ってあり、その上にフルーツやシロップがかかっていて若い女の子に人気急上昇中なんだとか。

まあ、いわゆる『映えスイーツ』というやつだ。



「かき氷なんてどこも一緒でしょ……」



「分かってないなあフロランタは。普通のかき氷とここのフワフワかき氷は全然違うんだよ! かつお節とカツオのたたきくらい違うんだから!」



「よく分かんない例えだけど……」



 まあ、とにかく氷がフワッフワで美味しいらしい。



「それにしたって、こんな炎天下の中で並んでまで食べるのはしんどいわ……」



「苦難を乗り越えた先にフワフワかき氷が待ってるんだよ!」



 それなら冷房の効いたお店でパフェでも食べてた方が良いのだけれど……



「お待たせしました~! ご注文どうぞ!」



 日傘を貫通するようなギラギラの日差しに耐え、大人しく列に並ぶこと十数分。

ようやくわたしたちの番がやってきた。



「メロはメロメロ☆ウォーターメロンかき氷く~ださい!」



「じゃあわたしは、メロメロ☆クリィムメロンかき氷ください」



「や~んヘンリエール、メロのこと好きすぎ~」



 そういう商品名だっただけよ。



「2点でお会計2000エルになりま~す!」



「は、はい……」



 は? かき氷1個で1000エル? お祭りのぼったくり価格でも500エルとかよね?



「少々お待ちくださ~い!」



 店員さんがシュリシュリシュリとかき氷を作り始める。

たしかに、普通のかき氷なら削るときにガリガリガリ! みたいなもっと荒っぽい音がする気がするけど、フワフワだからなのかだいぶ静かな削り具合……



「お待たせしました~! 溶けないうちにお召し上がりくださ~い!」



 店員さんからかき氷を受け取って公園にある木陰のベンチへ。

ちなみに妖精族用のミニサイズは無かったので、メロのかき氷も通常サイズだ。



「そのかき氷、貴女より大きいんじゃないの?」



「大丈夫、ギュッとしたら小さい氷の塊だから~」



「そう言われるとなんだか空しいわね……」



 かき氷はフワフワな分、普通の屋台のものよりかなり大きい。

その上に生クリームが乗ったカットメロンとメロンソーダみたいな色のシロップがかかっている。

まあ、見た目は結構美味しそうね。



「わ~い! いっただっきま~す!」



 メロが口を大きく開けてフワフワのかき氷を頬張っている。

わたしも溶ける前に食べてしまおう。



「森羅万象の恵みに感謝を。いただきます……ぱくっ」



 ……シャク、シャク。



「……うん、フワフワで冷たくて美味しい」



 メロンも食べてみよう。



「はむ……うん、甘くて美味しい」



 なるほど、これが1000エルのかき氷か……



 ―― ――



「ふう、食べた……気がしないけど、まあ身体は冷えたかしら」



「ヘンリエール、メロもういらな~い……寒くなってきちゃった……」



「まあそりゃそうなるわよね」





 …………。





 ……………………。





 食感以外普通のとあまり変わらん。




 【チリツモ☆アイスマウンテン/メロメロ☆クリィムメロン】



 ・お店:暑い。



 ・値段:クソ高い。



 ・料理:美味いけど別に、1000エルも出して食う必要はない。



 ヘンリエール的総合評価:42点。

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