第42話 セロリは無理



「なるほど、新フレーバー用の食材ですか……」



「ええ。営業の皆さんにも是非試食検討をお願いしたくてですね」



 こんにちは、ヘンリエールです。

今日はわたしが働いている商業ギルド『カゼマチ食品』の本部から商品開発部の方が来ています。

ウチの看板商品である携帯食料『エルフード』の新しい味を開発していて、候補の食材をいくつか試食して欲しいとのことでした。



「今回は農業ギルド『アルラウネファーム』さんから新鮮な野菜が届きましたんで、お好きな物を食べてください」



「野菜ならヘンリーの得意分野だねえ」



「エルフ族は野菜好きですからね。是非ともヘンリエールさんの忌憚ない意見をおねがいします」



「だってさヘンリー」



「いやパーシー先輩もエルフじゃないですか」



 確かにエルフ族の中でも、わたしみたいなホーリーエルフとウインドエルフのハーフとパーシアス先輩みたいなダークエルフとでは多少食生活も違うんだけど、それでも基本的にエルフは菜食主義だ。



「それにわたし、イザヨイに来てからは野菜よりもお魚とかのほうが食べますし」



「アタシはオーク肉が好きだよ」



「魔物肉は、ちょっとまだ苦手……」



 まあ良いわ。せっかくタダで新鮮な野菜が食べられるのだし、ここはありがたく頂きましょう。



「それでは皆さんご一緒に」



「「「森羅万象の恵みに感謝を。いただきます」」」



 周りにいる他の種族の同僚が『また森羅万象に感謝してる……』という目で見てくる。

別に良いじゃない。こっちは生まれたときから百年以上もこれやってるんだから。



「あ、ヘンリーこれ食べなよ。前に好きって言ってただろ」



「どれですか?」



「セロリ」



「…………」



 パーシアス先輩が黄緑色の細長い木みたいなやつをわたしに差し出してくる。

いやそれ嫌いなやつなんだけど。



「セロリは好きではありません。というか食べられません。無理です」



「まあまあ、新鮮なやつなら今まで食べたのと違ってきっと美味いから」



 新鮮なら余計に味がしっかりしちゃうじゃない。

無理なんだってセロリは。鼻から抜けるあの風味が特に無理。



「アルラウネファームさんのセロリは食べやすいと子供達にも人気なんですよ。さあヘンリエールさんもどうぞ一口」



「う、そこまで言うなら……信じますからね」



 ……ぱく。



「シャリ、シャリ……」



 …………。



「お〝え゛ぇ〝ぇ〝!!」



 ―― ――



「うん、どれも美味しかったよ。特にこのトマトが美味いねえ」



「そうですよね。私たちもトマトベースのフレーバーにしようと思っていたんですよ」



「ヘンリーはどうだい?」



「セロリが入ってなければなんでも良いです」





 …………。





 ……………………。





 だから無理だってセロリは。





 【アルラウネファーム/新鮮セロリ】



 ・お店:知らん。でっかい農場らしい。



 ・値段:タダ。



 ・料理:マジで無理。新鮮とかそういう問題じゃない。



 ヘンリエール的総合評価:0点。

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