第36話 闇市の串焼きは何の肉?



「ほ、本当に売ってる……」



 こんにちは、ヘンリエールです。

実は今、とある市場調査でスラム街に来ています。



「賞味期限切れのエルフードが半額以下……こういう所に流れちゃうのね」



 わたしが働いている商業ギルド『カゼマチ食品』の主力製品である携帯食料のエルフード。

契約している取引先の一部から賞味期限切れで廃棄になったものがスラム街の闇市に流れているのでは? という噂があり、ちょっと確認しに来たところ、本当に売ってました。



「廃棄業者が流してるのか、廃棄を盗まれたか……」



 まあこの辺りは他の部署の人に任せましょう。

せっかく闇市に来たし、なにか美味しいものでも食べて帰りたい。



「とはいえ、闇市で美味しい料理なんて……あら?」



 くんくん、なんだかお肉の焼けるいい匂いがする。



「あっちのほうかな……ちょっと行ってみよう」



 周りに漂う美味しそうな匂いを頼りにスラム街をしばらく歩くと、そこには1件の屋台が。



 〝串焼きジャンキー〟



「らっしゃいらっしゃい! 安いよ安いよ~! ひと串50エルだよ~!」



「本当に安いわ」



 屋台のおじさんが鉄串に刺さった何かの肉を焼いている。

特にお肉が小さいわけでもないし、これで50エルはさすがに安すぎる。



「あ、あのー……その串焼きって、何の肉使ってるんですか?」



「これかい? これはねえ、えーと、今日は何だったかな」



「今日は?」



 日によって変わるのおかしいでしょ。

まあ、さすが闇市の串焼き屋って感じもするけども。



「あーそうだそうだ、今日のは牛だなあ」



「牛? 牛肉の串焼きでこのお値段はかなり安い……」



「牛って言ってもオス牛だからな、肉がちょっと硬いんだ」



「は、はあ……」



 そういうものなのね。

まあいいや、めちゃめちゃ安いし試しに1本食べてみよう。



「それじゃあ、1本ください」



「まいどあり! 食べ終わった鉄串は横のバケツに入れてってくれよな、使い捨てじゃあないんでな」



「あ、はい」



 うーん、やっぱり別に普通の牛串……いや? なんかお肉の色が濃いかな……焼いてあるから分かんないや。

普通のお店だとあまり食べなくて捨てられちゃう部位とかなのかな。



「それじゃあ、森羅万象の恵みに感謝を。いただきます……はぐ」



 …………。



「うん、うん……さすがにちょっと、獣臭いかあ……」



 濃い目の味付けにしてるのはこの獣臭い風味を誤魔化す為だろうか。



「たしかにちょっと、噛み応えのあるお肉ね」



 オス牛だから筋肉質で脂が少ないのかしら。

ダイエットには良いかもしれないわね。



「うん、うん……」



 ……顎が疲れるわね。



 ―― ――



「ごちそうさまでした。串、ここに入れていきます」



「はいよ! どうだい? ミノタウロスの肉は美味かっ……あ、やべ」



「……ミノタウロス?」



「違う違う、ミノだミノ! 牛のホルモンのことね!」



「……ミノタウロス?」





 …………。





 ……………………。





 牛肉じゃねえじゃねえか。






 【串焼きジャンキー/牛串焼き(ミノタウロス)】



 ・お店:魔物肉を牛肉と偽って売ってるカス。



 ・値段:くっそ安い。牛肉じゃないから。



 ・料理:獣臭くてめちゃめちゃ硬い。



 ヘンリエール的総合評価:42点。

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