第32話 流しそうめんがムズすぎる
「皆さん、お箸と器は行きわたりましたかー?」
「「「はーい!」」」
「それじゃあ第812地区恒例、流しそうめん大会を始めまーす! かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
「か、かんぱーいっ」
こんにちは、ヘンリエールです。
今日はわたしが住んでいる地区の集まりで、流しそうめん大会というのをやっています。
大会って言っても別に競って大食いするとかじゃなくて、みんなで流しそうめんを食べるだけです。
ちなみに参加費はひと家族当たり500エルぽっきり。
「乾杯って言ったけど、これめんつゆだから飲めないわね」
竹の筒で組まれたウォータースライダーのような通路のてっぺんから水とそうめんを流して、みんなで掬って食べる。
人間族の国では随分と面白い食べ方があるのね……
「エルフのねーちゃん、早く食べないとなくなっちゃうぜ!」
「う、うん」
子供たちが楽しそうに流れるそうめんに群がって……じゃなかった、集まって食べている。
そうよね、子供とかこういうの絶対好きよね。
「よーし、それじゃあお姉ちゃんもいっぱい食べちゃうぞー」
「ヘンリエールさん、今日の集まりの中だとほぼ年長ですけどね」
「わ、わたしはエルフ的にはまだまだ若者なんです」
わたしが住んでいる『イザヨイ』の第812地区には人間族が多いため、年齢だけで見ると長命種のエルフであるわたしが飛びぬけて年配者という感じになってしまっている。
「エルフのおねーちゃんは、しわしわのおばーちゃんなの?」
「ううん、わたしはお肌ツヤツヤのおねーちゃんだよ。見てわかるでしょ?」
「うん……」
「ヘンリエールさん、子供たちを威圧しないでください」
「地区長さんが変なこと言うからです」
と、とりあえずわたしもそうめんを食べよう。
「えーと……あっ流れてきた、えいっ」
そうめんはわたしの箸さばきを華麗に交わして下流へと姿を消した。
「おねーちゃん、掴むの下手~」
「しょ、しょうがないじゃない、お箸歴が浅いんだから」
人間族の国『イザヨイ』ではみんな箸という棒切れ2本の食器を上手いこと使って食事をしている。
わたしの地元、エルフ族の国『タプナード』では箸を使う文化がなかったので、転勤でこっちに来てから練習している。
最近はそこそこ普通に使えるようにはなってきたけど、流しそうめんはまだちょっと難しい。
「ヘンリエールさん、そうめん掴むのが難しいならオススメの穴場スポットを教えてあげますよ」
「は、はあ。穴場ですか……?」
―― ――
「よっと。なるほど、たしかにここは穴場だわ」
地区長さんが教えてくれた流しそうめんの穴場スポットとは、一番最後の誰にも取られなかったそうめんを回収するザルの上だった。
たしかにこれなら掴めるわ。だって流れてないんだもの。
「あっエルフのねーちゃんザルから取ってる! 敗北者だ!」
「敗北者だ! 敗北エルフだ!」
「な、なによ……誰が敗北エルフですって……?」
「乗るなヘンリエールさん! 子供の戯言だ!」
……ふう、危ない危ない。もう少しでエルフ族の力を解放してしまうところだったわ。はやくそうめんを食べて落ち着こう。
「森羅万象の恵みに感謝を。いただきます……ちゅるるっ」
…………。
「美味し~! やっぱり苦労して掴み取ったそうめんは格別ね!」
「ねーちゃん苦労してないじゃん」
「だまれくそがき!」
―― ――
「じゃあな~エルフのね~ちゃ~ん!」
「おねーちゃんばいばーい!」
「はい、バイバイ」
「はーいそれじゃあそうめんスライダー解体しまーす! 大人の人手伝ってくださーい!」
「…………」
「大人のヘンリエールさん、手伝ってくださーい!」
「分かってますよ!」
…………。
……………………。
大人になると色々面倒になってきちゃうわよね。
【イザヨイ・第812地区/流しそうめん】
・お店:そうめんスライダーは結構わびさびがあって良い。
・値段:安い。
・料理:まあ普通のそうめん。体験込み。
ヘンリエール的総合評価:75点。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます