第24話 スラムのガキに激安蒸しパンを奢ってもらった



「ふう、ちょっと小腹すいちゃったな。何か食べようかな」



 こんにちは、ヘンリエールです。

外回りの営業がひと段落したので、ちょっと休憩。

お昼過ぎでおやつが食べたくなる時間帯。



「とはいっても、この辺りで手ごろなお店は……」



「あっヘンリーねーちゃんだ!」



「ヘンリーのあねご!」



「……姐さん」



「普通に呼んで普通に。ヘンリエールお姉さんとか」



 ふらふらと街の外れを彷徨っていたらスラム街の子供たちに遭遇。

この子たちには以前、スライムゼリーとかいう謎のお菓子を奢ってあげたのだ。



「みんな、こんなところで何してるの?」



「お店の手伝い!」



「スライム狩ってきたんだ」



「……お駄賃、もらえる」



 どうやらスライムゼリー用のスライムを調達してきたらしい。

まあ、スライムくらいなら上位種じゃなければこの子たちでも危険はないのかな。



「ねーちゃんはなにしてんの? 小銭落ちてないか探してんのか?」



「違うわよ……お仕事の休憩中。ちょっと甘いものでも食べようかなって」



 うーん、スライムゼリーは……ちょっと今日はいいかな。



「あっそれじゃあオレたちが奢ってやるよ!」



「スライムゼリーのお礼させてよ!」



「えっ? あ、ありがとう……でもゼリーはわたしちょっと」



「……おねーちゃん、蒸しパン、すき?」



「えっ、蒸しパン?」



 ……。



 …………。



「着いたぜねーちゃん!」



 〝おぼろ商店〟



「……雑貨屋さん?」



 子供たちが案内してくれたのは、スラム街の端にあるこじんまりとしたレトロな商店だった。

いかにも『昔から変わらずここでやってます』って感じの佇まい。



「……ここに、蒸しパンが売ってるの?」



「そうだよ!」



「ばーちゃんの蒸しパン、デカくて安いんだ!」



「1個買えば3人とも腹いっぱいになっちゃうぜ!」



「……おねーちゃんは、大人だから一人で食べ切れる」



 そ、そうかなあ……



 がらがら、がらがら。



「ばーちゃーん! 蒸しパンちょうだい!」



「今日は2個ね!」



「はいはい、ちょっと待ってねえ」



 子供達と一緒にお店に入ると、なんとも言えない、なんだろう……朽ち木というか、おばあちゃんちの家って感じの香りがする。



「文房具、置物、金物、ポーション……やっぱりここって、雑貨屋さんよね」



「あら、エルフのお客さんだなんて珍しいねえ」



「あっどうも……もしかして、ドワーフ族ですか?」



「そうそう、ドワーフ族よお。でもイザヨイに住み始めて、もう500年は経ってるからねえ。ドワーフ族の地元のことは忘れちゃったわあ」



「ばーちゃんはずっとばーちゃんなんだぜ!」



「ばーちゃんなのに腕相撲めっちゃつえーんだ!」



 ドワーフ族の寿命は人間族よりは長く、エルフ族よりは短い。

500才以上だとすると、この人はかなり長生きしているドワーフだ。



「はい、蒸しパン2個で200エルねえ」



「はーい」



「これねーちゃんの分ね」



「ありがとう……って、なにこれでっか」



 蒸しパンはわたしの顔くらいあった。

なにこれ、食パン1斤?



「ねーちゃん、食べて食べて」



「……蒸したて、美味しい」



「う、うん。じゃあ……森羅万象の恵みに感謝を。いただきます」



「「いっただっきまーす!」」



「……きます」



 …………はむっ。



「もぐもぐ……うん、うん……」



 良い感じに言うと、ほんのり甘くて優しい味。



「どうだねーちゃん、うまいだろ!」



「ええ、フワフワで美味しいわ」



「……ばーちゃん、蒸しパン美味いって」



「そうかい、そうかい。良かったわあ。最近のお嬢さんは、こういう地味なのあまり食べないから」



「でもねーちゃんも100才超えてるんだよね」



「ねーちゃんもばーちゃん?」



「君たち? もしかして蒸しパンになりたいのかな」



「「ごめんなさい」」



 ―― ――



「「ばーちゃん、蒸しパンごちそうさまー!!」」



「はいはい、またいらっしゃいねえ」



「ご、ごちそうさまでした……」



「……おねーちゃん、大丈夫?」



「え、ええ。ちょっとおなかがいっぱいではち切れそうなだけよ」





 …………。





 ……………………。





 ジャムとかつけて食ったら、美味いかもなあ。




 【おぼろ商店/くそでか蒸しパン】



 ・お店:昔ながらのレトロな雰囲気。



 ・値段:めっちゃ安い。



 ・料理:ほんのり甘い。味変しないと途中で飽きる。



 ヘンリエール的総合評価:62点。

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