第23話 フルーツだけ食べたハーピィのタマゴは甘いのか?
「はーやっと終わった。疲れたー……」
こんばんは、ヘンリエールです。
今日は久々に仕事が立て込んでて残業になっちゃいました。とほほ……
「すっかりお腹ペコペコだわ。今日は何を食べようかしら」
ギルドを出て今夜のディナーにふさわしいお店を探す。
今日は、そうねえ……卵料理が食べたい気分。
〝エッグランド・はぴはぴ☆ハーピィ〟
「いや違うって。ここに来ちゃダメだって」
いつの間にかレストラン街を抜けてちょっと妖しげな雰囲気の通りに来てしまった。
そしてそんなピンクのネオンが目に優しくない所にあるのがこの卵……いや、タマゴ料理専門店、『エッグランド・はぴはぴ☆ハーピィ』である。
料理屋かどうかは審議の余地あり。
「大通りに戻ってちゃんとしたお店を探そう……」
「おや、そこにいるのはヒバリちゃん常連のお嬢様ではありませんか?」
「えっ? あー……受付のお兄さん」
お店の入り口を掃除していたはぴはぴ☆ハーピィの店員さんに声をかけられる。
いやわたし、1回しか利用したことないけど。
「ヒバリちゃん、いつもあなたのこと楽しそうに話すんですよ。この間なんて同伴で演劇を観に行ったとか」
「いやそれ偶然……」
「あーそうそう! そんなヒバリちゃんと仲良しのお嬢様にちょっとお願いがありまして……少しお付き合いいただけませんか?」
「えっ? お願い?」
……。
…………。
「えーというわけで、本日はエッグランド・はぴはぴ☆ハーピィの新サービス『あなたの好みにフルーチュ♡エッグ』の試食会へようこそいらっしゃいました」
「は、はあ……えっなに? ふるーちゅ?」
前に来た時とは別の個室に案内され、そこで店員さんから説明を受ける。
「お嬢様は、鶏に与える餌によって卵の色や味が変わることをご存知ですか?」
「い、いえ……そうなんですか?」
「実はそうなんですよ。ですからブランド物のお高い卵などは、鶏の品種だけでなく餌にもこだわるのです。香りのよいハーブを主食とさせたり、色味が鮮やかになる果物や野菜を与えたり……」
「へえ……」
それは知らなかった。食べたもので卵にも影響が出るなんて、面白い話だわ。
「というわけで、当店でも似たようなサービスを考案しまして」
「はあ……えっサービス?」
この『エッグランド・はぴはぴ☆ハーピィ』はただの卵料理専門店ではなく、ハーピィ族の産みたてタマゴを味わえる特殊なお店だ。
タマゴを産んでくれる女の子は指名することも出来る。つまりはそういうお店なのだ。
「当店のエッグガールたちに、指名のあったお客様からリクエストされたフルーツを1週間ほど食べ続けてもらいまして。その後に産んだフルーティーなタマゴを提供するというわけです」
「ええ……」
これまたなんとも、お金持ちの道楽というか、随分と高そうなオプションサービスだ。
「それではエッグガールの登場です! ヒバリちゃ~ん!」
「は、はーい……あっヘンリエールさんだあ」
「こ、こんにちはヒバリちゃん」
お店で働く新人エッグガールのヒバリちゃんがやってきた。
ヒバリちゃんは前にここで卵かけごはんを食べたときにお世話(?)になったハーピィ族の女の子だ。
「さあ、後はおふたりでどうぞしっぽりと。帰る前に味の感想聞かせてください。それでは失礼いたします」
「えっちょっ」
店員さん、帰っちゃった……試食会なのに適当だな。
「まさか、試食していただく相手がヘンリエールさんだったなんて……えへへ、うれしいなあ」
「え、ええ。まさかわたしも試食することになるなんて思ってもみなかったわ」
残業上がりに食べるのが、ハーピィガールの産みたてタマゴフルーツ味か……まあ、ちょっとだけ楽しみではある。
「あっあの、試食用のタマゴなんですけど、ワタシは桃担当で……ここ最近、桃しか食べてません」
「そうなんだ。その……辛くない? 毎日同じものしか食べられないって」
「桃は、好きなのでぇっ……1週間くらいなら、平気ですねっ……んっ、お給料も、いっぱい貰えるので」
「ヒバリちゃん?」
ヒバリちゃんはお腹の下辺りを抑えてもじもじとしている。
もしかしてもう、産まれそうなんですかね。
「えっと、んっ……ヘンリエールさん、タマゴ出そうなので、両手を出してもらっても……?」
「あっは、はい。いつでもどうぞ」
わたしは両手を構え、その上にヒバリちゃんが跨る。
……普通に横になって産むんじゃダメなのかしら。情緒の問題?
「んっもう、産まれちゃう……! あっ……!!!!」
……。
…………。
「ヘンリエールさん、ゆで卵にしました。最初はそのまま食べてみてください」
「あ、ありがとう……」
桃を食べて育ったハーピィ族のゆで卵か……まあとにかく、食べてみよう。
「森羅万象の恵みに感謝を。いただきます……はむ」
…………。
「どうですか?」
「……結構違うかも。なんか普通のより甘い気がする」
普通のっていっても、ハーピィ族のタマゴは1回しか食べたことないけど。
「ワタシもちょっと食べてみよう……ヘンリエールさん、食べさせて?」
「え、ええ。はい、あーん……」
「んっ……あ、本当だ。ちょっと甘いかも……えへへ」
かわいい。
「ゆで卵じゃなくて、これでスイーツとか作ると美味しいかもですね」
「あーそれいいかも」
ハーピィ族の産みたてタマゴで作ったプリンとか。
アンダーグラウンドで流行りそう。
「あ、でもねヒバリちゃん」
「なんですか? ヘンリエールさん」
「桃だけ生活とか、ずっと続けてたら身体壊しちゃうかもしれないから。あんまり頻繁にやってほしくない……かな」
「ヘンリエールさん……優しい。すき」
ヒバリちゃんの好感度が上がった。
―― ――
「ごちそうさまでした」
「お疲れ様でした。お味の方はいかがでしたか?」
「フルーティーな風味と甘みが増していて、悪くないと思います。これっていくらで売る予定なんですか?」
「食べさせる果物のリクエストオプションと、エッグガール達の食事制限の負担もありますので……1個30000エルってところですかね」
「たっか……いけど、まあ無難かもしれない……」
「さすがヒバリちゃんが見込んだお嬢様。良ければわが店のプロデューサーとして一緒に働きませんか?」
「働きません」
…………。
……………………。
桃風味の産みたてゆで卵はさすがにえっちかあ。
【エッグランド・はぴはぴ☆ハーピィ/あなたの好みにフルーチュ♡エッグ・ヒバリちゃんの産みたてゆで卵、桃風味】
・お店:えっち。
・値段:アホほど高い。でも今日はタダで試食できた。
・料理:マジで甘くなるんだな、結構衝撃。提供方法はえっち。
ヘンリエール的総合評価:69点。
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