第20話 トリュフ? なにそれおいしいの?


「さあこちらですよ、ヘンリエール様」



「あ、ありがとうございます。うわあ、オシャレなお店……」



 こんばんは、ヘンリエールです。

今日はわたしが働いている商業ギルド『カゼマチ食品』の取引先で、レストランを経営しているオーナーさんがお店に招待してくれました。



 〝リストランテ・ネオアリア〟



「ようこそいらっしゃいました。こちらがワタクシ、リッチリッチの経営するルィストルァンテ・ネオアッルィ~アにございます」



「は、はあ……えっなんて?」



「申し訳ございませんヘンリエール様、オーナーはちょっと魔海訛りが少々ありまして」



「あ、そうでしたね……なんでしたっけ、リッチーキングでしたっけ」



「左様にございます」



 このオシャレなお店、リストランテ・ネオアリアのオーナーのリッチリッチさんは、『リッチーキング』という魔族だ。

見た目はまあぶっちゃけ、スーツを着た骸骨である。

正確にはリッチーキングというか、リッチー族の偉い人らしいけど……



「ミス・ヘンリエール、相変わらずワタクシが珍しいようデスねぇ~」



「え、ええ。実際に魔族に会ったのは、リッチリッチさんが初めてなので……」



 魔族は、この世界に存在する生き物を大きく分けたときのひとつの括りである。

人間族や、わたしたちエルフ族、ドワーフ族などの『ヒューマン』、牛や豚、鶏などの『動物』、ゴブリンやオークなどの『魔物』……そしてリッチリッチさんのような、アンデッドや無機物のような見た目をしている魔物の中で、ヒューマンと意思疎通ができる高知能の者を魔族と呼ぶ。



「まあまあ、魔族とヒューマンは最近まで魔石を巡って争っていましたから。お互いの暮らす地域へ行く者はまだまだ少ないデスねぇ~」



 魔族は『魔海』と呼ばれる地域に棲んでいて、魔海とわたしたちヒューマンが棲む『大陸』の間にある『魔石山脈地帯』の所有権を巡って戦争をしていた歴史がある。

ちなみにリッチリッチさんは『最近まで』って言ってたけど、わたしが生まれる数百年も前の話なのでそんなに最近でもない。

アンデッド族は寿命があってないようなものらしいから、長命のエルフ族以上に時間間隔がガバガバだわ。



「さあさあ、ヒューマンと魔族の争いなどというつまらない話は置いといて、本日は思う存分美味しい料理を召し上ガーレ!」



「あ、ありがとうございます。ご馳走になります」



 店員さんの案内でオシャレな店内のオシャレな席にオシャレな感じで座る。

ど、どうしよう。ナイフとフォークがいっぱい置いてあるわ。こんな使わないでしょ。



「あ、あの、わたしこういうお店初めてで、マナーとかあまり……」



「オーウそんなの気にしないで大丈夫デスねぇ~。全部ピッツァに包んで食べても良いデスよぉ~」



 いやそんなことはしないけど。



「当店は雰囲気だけ高級レストランっぽい感じにしてるだけなので気軽にお食事ください」



「あ、ありがとうございます」



「それはそれとして、ワタクシ自慢の高級食材を使った料理も食べてもらいたいデース!」



「高級食材、ですか?」



「そう、それは……トリュフデスねぇ~」



「トリュフ」



 メニュー本を開いてトリュフとやらの料理を探してみる。



「白骨リゾット~白トリュフを添えて~……」



 どんな名前のセンスよ。



「……ん? 12000エル? い、いちまんにせんエル……?」



 えっこれ……たっっっっっっっか!!!!

昔食べたえっちな卵かけごはんの倍以上するんだけど!?

もしかしてこれもえっちなやつか……?



「高級食材のトリュフですが、黒と白がございまして、白の方が貴重で価値が高いものとなっております」



「ウチで使ってる白トリュフはワタクシ自ら競り落とした一級品なのデース。香り高く芳醇な風味で、リゾットの優しい味を一段上の存在へと高めてくれるのデスねぇ~」



「そ、そうなんですね……でもさすがに、これをいただくのは……」



「遠慮はナッスィングデスねぇ~! ウェイター、こちらのリゾットをミス・ヘンリエールに」



「かしこまりました」



「ちょっ……!」



 マジか。リゾットって、お粥みたいなものよね? それが12000エル……本当にわたしなんかが食べていいものなの……?



「ち、ちなみにリッチリッチさん、白骨リゾットの名前の由来って……」



「使ってる食材が全部白いんデスよぉ~。ホワイトソースとかチーズとか白米とか」



「そうですか」



 ―― ――



「お待たせいたしました。こちらが当店特製の白骨リゾット~白トリュフを添えて~にございます」



「アツアツだからゆっくり召し上がるんデスよぉ~」



「は、はい……」



 この、リゾットの上にちょろっと乗ってる生姜の薄切りみたいなのが高級食材の白トリュフ……



「そ、それじゃあいただかせていただきます……森羅万象の恵みに感謝を。いただきます……ぱく」






 …………。





 ……………………。





 すげーなんか、口の中いっぱいに実家の近くの森みたいな味が広がったわ。





 【リストランテ・ネオアリア/白骨リゾット~白トリュフを添えて~】



 ・お店:オシャレ。リッチな気分が味わえちゃう。



 ・値段:コイツはバカ高いけど他の料理はそこまで高くなかった。



 ・料理:エルフの森みたいな謎の風味。普通のリゾットに粉チーズ無限がけして食った方が多分美味い。



 ヘンリエール的総合評価:62点。

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