第21話 吸血鬼のラーメン屋で貧血になった



「……ラーメンが食べたい。こんな時間に、ラーメンが食べたくなっちゃった」



 こんばんは、ヘンリエールです。

今さっきまで普通に寝てたんですが、ちょっと起きてお手洗い行ってきたら、なんだか急にラーメンが食べたくて仕方なくなってしまいました。



「……家にカップ麺のストック、なし。終わった」



 ダメだ、無いと分かったら更に食べたくなってきた。

ちょっと外に出てラーメン屋さんを探しに行こう。



「とはいえ、こんな夜中にやってるお店あるのかなあ」



 たまに近所の公園に出没する『夜叉猫ラ~メン』は今日は発見できず。

うう、ある意味ここが最初で最後の頼みだったんだけど。



「ラーメン……ラーメン食べたい……あら?」



 イザヨイの住民もほとんど寝静まった深夜。

月明りを頼りにふらふらと街を徘徊している怪しい女エルフが発見したのは、『営業中』と書かれたボロボロの提灯がちょっと不気味な一軒の古びた洋館だった……



 〝どらきゅらぁめん〟



「お店の名前、かわよ」



 ここは……ラーメン屋さんよね? 営業はしてるっぽいけど……



「くんくん……すっごく美味しそうな香りが……これはもう行くっきゃないわ」



 ギィ……



「す、すいませーん……」



「あら、こんな時間にエルフのお客さんだなんて珍しい。よく来たわね、さあ座って」



「あ、はい……」



 ラーメン屋というより、ちょっとオシャレなバーみたいなカウンターだ。

店員のお姉さん……ん? お嬢さん?



「お母さんのお手伝いかな?」



「失礼ね。こう見えてもとっくの昔に成人してるわよ。あなたヴァンパイア族は初めてかしら?」



「あ、あー……ヴァンパイア族なんですね。初めて会いました」



 ヴァンパイア族。

吸血鬼とも呼ばれる彼女たちは、わたしたちエルフ族と同じ長命のヒューマンだ。

日光が苦手で基本的には夜型の生活なため、日中に活動するわたしたちが出会うのは珍しい……って聞いたことがある。

実際に見るのは今日が初めてだ。



「あなただってエルフなんだから、どうせ見た目以上にオバサンなんでしょ?」



「失礼な。わたしはまだピチピチの153才です」



「人間族からみたらおばあちゃんもいいところよ……って、あなた153才なの? あらやだ、わらわと同い年じゃない!」



「えっあなたも153才? うわー同い年の人初めて会ったかも! エルフ族含めて!」



「わらわもよ! あっ自己紹介がまだだったわね。わらわはこのラーメン屋『どらきゅらぁめん』の大将、ククルよ」



「わたしはヘンリエールです。『カゼマチ食品』っていうギルドで働いています」



「あら、カゼマチってあのエルフードのところよね? わらわも好きよ、エルフード。最近たまに食べてるわ」



「え~そうなんですか! 嬉しいなあ!」



 まさかこんな時間にこんな所で同い年の知り合いが出来るとは思いもしなかった。

それはそれとして、はやくラーメンが食べたい。



「えっと、ここのお店のオススメとかある?」



「わらわのオススメはうまトマラーメンね! トマトとチーズをたっぷり使ってて、麺もスープに合うようにハーブを練り込んだ自慢の薬草麺よ!」



「美味しそう……それにするわ」



「承ったわ! 最高の一杯を出してあげる!」



 トマトベースのラーメンなんて初めてだ。

楽しみだなあ。



 ……。



 …………。



「はーい、うまトマラーメンお待ち! アツアツのうちに召し上がれ」



「ありがとう。あ、美味しそうな香り……」



 うーん、チーズリゾットみたいな良い香りがする……それじゃあさっそく。



「森羅万象の恵みに感謝を。いただきます……ふー、ふー」



 ちゅるるるる。



「……うん、美味しいわ! これすっごく美味しい!」



「あら本当? うふふ、良かったわ。気に入ってもらえて」



 トマトスープとチーズの相性がバツグンに良くて、更にハーブが練り込まれた薬草麺が芳醇な風味を醸し出す。



「これはもう、止まらないわ……!」



 わたしは夢中になってうまトマラーメンを食べ進めた。完飲。



 ―― ――



「ふう……美味しかった。これはリピートしちゃうかも」



「夜更かししたときはまたわらわの店にいらっしゃいな」



「うん……あ、お会計で」



「はーい。うまトマラーメンひとつで、エルフ換算だから……はい! 400mLになりまーす」



「はい、えーと、400……えっ安! ……ん? ミリリットル? エルじゃなくて?」



「ええ、ウチはお金じゃなくて、コッチで払ってもらってるのよ……(気に入った子だけ)……」



「えっいやまさか、もしかして……ククル?」



「いただきまーす……」



「ククル!? いきなりそんな、心の準備が……! ちょっと待っ」



 かぷっ。





 …………。





 ……………………。





 おい貧血なったわ。絶対400mL以上吸ったやろ。





 【どらきゅらぁめん/うまトマラーメン】



 ・お店:ラーメン屋っぽくないオシャレさ。店員がタメだった。



 ・値段:まさかの吸血払いだった。高いか安いか分かんねえ。



 ・料理:めちゃめちゃ美味い。まあ……貧血になってまで食う価値はあり。



 ヘンリエール的総合評価:83点。

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