第18話 パンケーキ師匠



「ヘンリエール、こっちこっち、こっちだよ~。あ、メロのこと見えてますか~?」



「ええ、大丈夫よ。ちゃんと付いていってるから」



 こんにちは、ヘンリエールです。

今日は職場の同期に誘われておすすめのスイーツのお店に行くことになりました。



「えっメロがキュートすぎて目が離せないって? やーんヘンリエールって相変わらずスケコマシなんだから~」



「スケコマシってなによ」



 この子は妖精族のメロ。

わたしが働いている商業ギルド『カゼマチ食品』の広報部門所属で、部署は違うけどわたしと同じ時期に配属された同期の女の子。

ちょっときゃぴきゃぴしているというか、地に足ついてない感じの子だけど、まあ悪い子じゃない。

ギルドの男性職員からの人気は結構あるらしい。



「ヘンリエールってば、もしかしてメロのお尻ばっかり見てたんじゃないの~?」



「わたしの目線の先でブンブン飛んでたら嫌でも視界に入るでしょ」



「ちょっと、そんな羽虫かなにかみたいな言い方しないでよ~」



 妖精族はヒューマンの中で最も小型の種族で、大人でも人間族の赤ちゃんくらいの大きさしかない。

甘いものが好きな子が多く、メロもイザヨイに来てから色々なお菓子のお店を食べ歩いたりしているらしい。



「あっ着いたよ~。ここがメロおすすめのスイーツ屋さん!」



 〝パンケーキ師匠〟



「……なんか、渋くない?」



 前に行った佃煮専門店を思い出すような、老舗感漂う貫禄のある店構えだ。店名もなんかおかしい。

メロのおすすめっていうくらいだから、もっとこう、ゆるふわガ~リ~スイ~ツ脳☆って感じのを想像していたのだけれど……



「そうかなあ? シブ可愛い~って感じでメロは好きだよ~」



「まあ、あなたが良いならわたしは別に……」



 がらがらがら、と少したてつけの悪い引き戸を開けて店内へ。



「パンケーーーーーキ!!!!」



 がらがらがら。



「帰ろうメロ。なんか変な人がいた」



 お店の真ん中で、叫びながらなぜか無駄に高い位置からパンケーキにシロップをかけている男の人がいて、思わず開けた引き戸を速攻で閉めてしまった。



「あの人が店主のパンケーキ師匠だから大丈夫だよ~」



「大丈夫じゃないってそれ」



 ガラガラガラッ!



「お客さんかい? どうした、冷凍庫から取り出したアイスくらいカチコチに緊張しやがって……オレだよオレ、パンケーキだよ! 遠慮なんかいらねえ、中に入んな!」



「えっあっはい」



 中からさっきの男の人が出てきて、強制的に入店させられる。

麦わら帽子を被り、腰に酒瓶のようなものをぶら下げている怪しい男……この人が店主?



「パンケーキ師匠、久しぶり~」



「おいおいおい! メロの嬢ちゃんじゃねえか~! そっちのエルフちゃんはなんだい? もしかしてメロちゃんのコレかい?」



 パンケーキ師匠とやらはわたしとメロを交互に見ながら両手の小指を突き上げる。

なに、どういう意味なのそれ。

ちなみに腰に下げていた酒瓶はよく見たらさっきかけてたシロップのボトルだった。



「きゃはは! やだもう師匠ったら~! あ、メロはいつものプチパンケーキ、生クリームマシマシね~。ヘンリエールは?」



「そうね、じゃあ普通のやつで……ん? 甘々フライパンジョーク付き? なにこれ」



「師匠の王道パンケーキ、甘々フライパンジョーク付きでかしこまりい! それじゃあハニーたち、しばしお待ちをってね!」



「えっ? いやわたし普通ので……」



 パンケーキ師匠は去っていった。

何なんだ一体。どんな店なんだここは。



「はあ……なんか、どっと疲れた……」



「大丈夫大丈夫、料理は美味しいから~」



 しばらくすると、パンケーキ師匠が料理を持って現れる。



「はいこちら、メロちゃん専用メロメロ生クリームプチパンケーキね~」



「師匠師匠、今日のメロはどんな感じ~?」



「そうだなあ、いつにも増してとってもキュート! もしかしてそちらのエルフちゃんとメロメロデートかな? あまーーーーーい!!!!」



「きゃ~あはは!」



 パンケーキ師匠のよく分からない受け答えにメロは大喜びだった。



「それじゃあこちらはエルフちゃんに。師匠の王道パンケーキと、甘々フライパンジョークね! いきまーす!」



「えっ? な、なにを?」



「パンケーキこの前ね、マイスイートハニーに浮気を疑われたんだよ。でも俺はそんなことしちゃいない、必死に身の潔白を訴えたんだ。俺はやってない、俺はシロだって、シロップだけに、ね……」



 \デエエエエエエエエン/



「パンケーーーーーキ!!!!」



「きゃはははは!!」



「……ふふっ」



 やばい、ちょっと、勢いで笑ってしまった。こ、こんなので……

メロは大爆笑だった。そこまでじゃないでしょ。



「それじゃあごゆっくり召し上がれっ! アデュー!」



「はーい」



「ふう……くくくっ」



「ヘンリエールまだツボってる~」



「ちょっと、ジワジワきちゃって……」



「パンケーキに染み込むシロップみたいに?」



「あははっ! それ、やめて……」



 パンケーキは普通に美味しかった。



 ―― ――



「はい、1000エルちょうどのお預かりっと」



「ご馳走様でした。美味しかったです」



「パンケーキ師匠、またね~」



「いつでも帰ってきな! オレはここで首を長くして……いや、生地を膨らまして待ってるからよ! パンケーーー」



 がらがらがら。



「うーん、美味しかった~」



「……くくくっ。パ、パンケーキ……」



「ヘンリエール、意外とツボ浅いんだね~」





 …………。





 ……………………。





 パンケーーーーーキ!!!!





 【パンケーキ師匠/師匠の王道パンケーキ、甘々フライパンジョーク付き】



 ・お店:熟す前のパパイヤくらい渋い。店主が色々な意味でヤバい。



 ・値段:多分普通。



 ・料理:フワフワで美味しい。特製シロップがあまーーーい。



 ヘンリエール的総合評価:82点。ハニーだけに。パンケーーーーーキ!!!!

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