第8話 虫嫌い VS イナゴの佃煮



「あったあった。ここが佃煮のお店……」



 こんにちは、ヘンリエールです。

今日はイザヨイにある獣人街で観光がてら街を散策中。

朝に寄ったいなり寿司のお店の店主さんに『美味しい佃煮の店がある』と聞いたので、ちょっと見に来ました。



 〝佃煮屋・ねこのて〟



「し、渋かわいい……」



 墨で書いたような趣のある店看板に、肉球マークの墨の跡が付いている。

ここは猫叉族の店主さんが営業する佃煮の専門店らしい。



「わっ、色々売ってる」



 休日の昼前で、お店には結構な人だかり。

獣人系のお客さんばかりかと思ったけど、どちらかというと人間族のほうが多いみたい。

わたしと同じエルフ族は……いないわね。エルフって佃煮食べないのかしら。



「椎茸の佃煮、美味しそう……こっちはワカサギ……あっ試食も出来るのね」



 試食用に置かれた椎茸の佃煮をひとつ食べてみる。



「……こ、これはお米が欲しくなっちゃうわね」



 強烈な甘みと旨味がわたしの脳に素早く届く。

そして脳は緊急指令を飛ばすの……はやくお茶碗に山盛りの白米をかきこめと。



「これがあればおかずが作れないわたしでも自炊ができるのでは……?」



 炊き立ての白米と、佃煮さえあればいい。

世界じゃそれを自炊と呼……ぶかどうかは分からないけど。

よし、何種類か買っていこう。



「椎茸は絶対買うでしょ。あとは……昆布とフキ、小アジも美味しそうね。貝もあるんだ。シジミ、はまぐり……」



 色々種類があって迷っちゃうわね。

とりあえず片っ端から試食して、美味しいやつを……



「……ん? イナゴ? これはなにかしら」



 イナ……稲の子? お米の佃煮とか?



「へえ、そんなのも佃煮に……ッ!?」



 違う。これはお米の佃煮なんかじゃない。

目が合った。コイツは……虫だ。



「む、む、む、虫……!!」



 この世でわたしがもっとも苦手な生き物、虫。それが佃煮にされて売っていた。

見た感じ結構人気だし。まったく、どうかしてるわ。



「はっはっは! エルフの嬢ちゃん、イナゴは初めてかい」



「あら、美味しいわよ~イナゴの佃煮。ちょっと食べてみなさいよ」



「えっあっいや」



 周りのお客さんが何故か執拗にイナゴの佃煮を勧めてくる。



「いえ、わたしはイナゴはちょっと……」



「まあまあまあ! 試しに食ってみなって!」



「そうよ! 美味しいから! 虫に対する苦手意識もなくなるから!」



「う、うう……!」



 ヘンリエールは同調圧力に負けた。



「これはエビ、これはエビ……はむ」



 …………。



「どうだい嬢ちゃん? イナゴも結構いけるだろ!」



「は、はい、そうですね……」



 わたしはコッソリ口直しに海苔の佃煮を頬張った。



 ―― ――



「それじゃあ椎茸と昆布ときゃらぶき、それにシジミと海苔の佃煮ね。合計で1750エルになります」



「はい」



「2000エルのお預かりで、250エルのお釣りね。ありがとございました」





 …………。





 ……………………。





 すまん、羽と足の食感が無理だった。





 【佃煮屋・ねこのて/佃煮色々】



 ・お店:昔ながらって感じ。試食できて良い。



 ・値段:ちょっと高い。



 ・料理:椎茸と海苔がめっちゃ美味しい。白米不可避。イナゴは人による。



 ヘンリエール的総合評価:72点。

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