第3話 先輩に親子丼を奢ってもらいました
「あっはっは! なんだいアンタ、それで今日の昼は山盛りのラッキースコーンを食べてたのかい」
「フライドゴブリンはアレでしたが、これだけは美味しかったんですよ……」
こんばんは、ヘンリエールです。
今日は仕事で使う資料作成が難航してて、ちょっとギルドで残業中。
はやく終わらせて美味しいごはんを食べに行きたいわ。
「アタシは帰るけど、ヘンリーはまだ残ってくのかい?」
「あっはい、パーシー先輩が手伝ってくれたおかげでもう少しで終わりそうなんで……」
この人はわたしの職場、商業ギルド『カゼマチ食品』の先輩のパーシアス先輩。
この国では数少ないわたしと同じエルフ族の女性で、お互いに『ヘンリー』、『パーシー先輩』と愛称で呼び合って仲良くさせてもらっている。
エルフ族の中にもいくつか種類があって、パーシアス先輩はダークエルフ。黒い髪に褐色の肌、背もスラっと高くて大人っぽい。
ちなみにわたしはホーリーエルフとウインドエルフのハーフで、ライム色の髪に白い肌。身長はエルフ族の平均よりもちょっと低い。
「それじゃあ……せっかくだし、出前でも取ろうじゃないか」
「出前、ですか?」
「店に食いに行くんじゃなくて、注文した料理をギルドまで持ってきてくれるのさ」
「へえ。イザヨイにはそんなサービスもあるんですね……」
「ヘンリーみたいな仕事で帰れない可哀想な連中がわんさかいるのさ」
パーシアス先輩はギルドのフリースペースに置いてあるチラシを1枚取り、こちらに持ってくる。
「ヘンリー、食いたいもんはあるかい? 先輩が奢ってあげよう」
「えっいいんですか!?」
「仕事を頑張ってる後輩にご褒美さね」
「ありがとうございます!」
わたしはウキウキでメニューを眺める。
天丼、かき揚げそば、ミニ天丼とざるうどんセット……
「うーん……先輩は、何にするんですか?」
「アタシかい? そうさねえ、親子丼にでもしようかね」
「親子丼、ですか?」
メニュー写真には、大きな器に黄色いドロッとしたものが山盛りになり、真ん中に何かの芽のような小さい葉野菜がちょこんと乗っている。
「これ、美味しいですか?」
「アタシは結構よく頼むよ。少なくとも、ゴブリンの肉よりは食べやすいね」
「じゃあ、わたしも親子丼にします」
「はいよ! それじゃあ注文しとくから、ヘンリーは残りの仕事片づけときな」
「はい!」
……。
…………。
「どうも~! 〝うつつ庵〟の出前サービスで~す!」
「きた!」
「アタシが取って来るよ」
出前を待っている間に仕事を終わらせたので、後は美味しい料理を食べるだけ。
親子丼、楽しみだなあ。
「食べ終わった器は回収に来るんで入り口に出しといてください! 毎度ありがとうございました~!」
「さあ来たよ、温かいうちに食べようじゃないか」
「はい!」
パーシアス先輩から大きなどんぶりを受け取って、蓋を開ける。
「ふわあ……良い香り」
「ここの親子丼はダシが効いてて美味いんだ」
「そうなんですね……」
「それじゃあ、早速。森羅万象の恵みに感謝を」
「いただきます! はぐ……」
スプーンで具材とお米を掬って口に運ぶ。先輩は箸で食べてるけど、わたしはまだ上手く使えない。
「もぐ、もぐ……こ、これは!」
「どうだい?」
「美味しい! とっても美味しいです!」
親子丼っていうのは、具材に鳥のタマゴと肉を両方使っていることから付いた名前らしい。
名前の由来がちょっと怖いけど、フワフワのタマゴとホロホロのお肉の相性がバツグン。
残業終わりの空っぽ胃袋にダイレクトアタック。
「エルフってのはあまり肉を食べ慣れてないからね。いきなりゴブリンみたいなクセのある肉にいく前に、こういう食べやすい卵料理から挑戦してみるのがオススメだよ」
「はい! 美味しいです!」
「聞いちゃいないね」
わたしは夢中になって親子丼を食べ進めた。
―― ――
「ごちそうさまでした!」
「はい、ごちそうさん」
「そういえばパーシー先輩。親子丼があるってことは、タマゴを二つ使ったら姉妹丼なんですかね?」
「ヘンリー……その話は人前でしない方がアンタの為だよ」
「へ?」
…………。
……………………。
仕事終わりに先輩の奢りで食う親子丼、美味すぎて涙が出ちまうぜ。
【うつつ庵/親子丼】
・お店:出前はとっても便利だった。
・値段:先輩、無料、奢りにて。
・料理:フワフワトロトロ、めっちゃ美味い。奢りなのでなお美味しい。
ヘンリエール的総合評価:90点。
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