第42話 共同作業


「はぁ……はぁ……つ、疲れました……」


「あはは…‥お疲れ様ですリリナさん」


息を切らしながら、椅子に座って机に突っ伏しているリリナさんに労いの言葉をかけるが、俺も所々身体が痛い。


いや、フェリシアさんみたいにみんなをまとめられるわけがないのは薄々分かっていたが……。


「……レクスさん、ほんとに大丈夫、ですか?……皆さんに踏んだり蹴ったりされていましたが……」


「……正直なところ大丈夫ではないですね」


みんな、久しぶりに遊べることが嬉しいのか、俺に寄ってたかって来たのだ。

ある奴は俺に腹パン喰らわすし、また別の奴は俺に魔法を……ちょっと待って、今考えたらここの子供やばくない?


リリナさんもそう考えているのか、外で眠っているみんなを見ながら呟く。


「10歳も満たない子供が魔法を使ったことには驚きました……何故あれほどの強さを……?」


「あー……フェリシアさんの教育の賜物だと思います」


「……あの、エルフの?」


「えぇ。いつか一人になっても生きていけるようにって、みんなに魔法を教えているんです……俺は、魔法が使えるようにはなりませんでしたが」


強いて言えば、身体強化の魔法ぐらい……あとはこれぽっちも使えない。


「……エルフ、フェリシア……その名前を聞いて疑問に思っていましたが、もしかしてフェリシア様は元冒険者だったのですか?」


「えぇ……え?なんでそう思ったんですか?」


「いえ……昔、少しギルドの中でも話題になっていましたから」


ギルドで……そういえばフェリシアさん、ウロス様とスミーヤさんと活動していたとか言ってたよな?

俺の気のせいじゃなければ、あの二人、相当強い人だと思うし……その人たちと仲間って、もしかしなくても凄い人だったのでは……?


「……不思議なこともあるのですね。猛威を払っていた冒険者の一人が、今では足を洗い、子供のために動いてるのですから」


そう言ったリリナさんの表情が穏やかなものに変わる。

いつも冷たいものではなく、優しさに溢れたもの……俺から見て今の彼女はとても眩しくてより一層綺麗な人に見えた。


そんな俺の様子に気づいたのか、リリナさんさんんっ、と咳払いをして立ち上がる。


「さ、さぁ!昼食の後片付けをしましょう。今のうちにやれることをやらなければ」


「そ、そうですね……!」


何やってんだ俺は……少しだけ頬が熱くなるのを感じながらも、彼女と共に調理場に向かう。


すごく汚れているが、食べ残しなどは一切残っていない。きっと残さず食べるという彼女の教えだ。

フェリシアさんの影響力を凄さを感じながらも、リリナさんと洗い物をしていく。


器用に水魔法を活用しながら、皿を洗っており、洗い終わったものを俺がタオルで拭いていく。

淡々とした作業。だが、その作業をしてる昔の父さんと母さんのことを思い出して……。


……夫婦の共同作業ってこういうことを言うんだろうなぁ……。


そう思うと、自然と笑みが浮かべてくる。まぁこんなことリリナさんに聞かれたら嫌われそうだけど……。


「……あれ、リリナさん?」


お皿が来ないことに違和感を持ち、彼女の方を見ると……全身を真っ赤にさせながら、動きを止めている。


「…………あれ?リリナさーん?」


「…………………………………………………ふ」


「ふ?」


「……………不意打ちは、卑怯……です」


ふ、不意打ち?そう言うと、リリナさんは身体が真っ赤になりながらも、作業を再開していく。

俺はというと……彼女の言葉に疑問を持ちながら作業していたのだった。







心臓がバクバクっと激しく動くのを感じる。

気絶になりそうになるが、ほんの少しの耐性がついたことや根性でなんとか正気を保っていた。


『夫婦の共同作業ってこういうことを言うんだろうなぁ……』



おそらく無意識から出た言葉。それを思い出すと、また胸が苦しくなる。


(……ふ、ふにゅう……それは卑怯だよ、レクスくーん……!)


……やはり、彼には敵わないかもしれない。


胸の苦しさと嬉しさを噛み締めながら、彼と一緒に夫婦の共同作業……をするのだった。


……私にはまだ、早いのかもしれないと思いながら。






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